ロバート・J・ソウヤー「脱ぎ捨てられた男」(2011-07-01, 草野)
著者紹介
1960年生まれのカナダ作家。科学的アイディアを基幹とする「ハードSF」の書き手だが、一般的なハードSFよりも専門性は薄く、科学に詳しくない人でも気軽に読めるだろう、SF初心者にはお勧めの作家。
今回の課題作は人間の意識をコンピューターにアップロードする話だが、ソウヤーはそのテーマを他作品でも展開している(『ゴールデン・フリース』、『ターミナル・エクスペリメント』など)。また、政治思想的にはリベラルであり、作中でアメリカやカナダの政府を批判することもしばしば。
長編『フラッシュフォワード』はアメリカでTVドラマ化された。(テレビ朝日で毎週土曜日0:30~放映中)
あらすじ
人格情報のコピーとコンピューターへのアップロードが可能になった時代。致命的な脳卒中の素因を持つラスバーンは自身の人格をロボットへアップロードする契約を交わす。この時代の法律では、アップロードされたほうの人格のみ人権が添付されることになり、オリジナルの人格は死ぬまで豪華な施設に閉じ込められ、飼い殺しされる。そのことを了承し契約したラスバーンだが、永遠に続く軟禁生活はやはり苦しかった。彼はそこから脱出するため職員を人質にし、自身への人権添付を要求する、現行の法律上ではアップロードされたほうのラスバーンが死ねば、オリジナルのほうに人権は戻ってくる、しかし、アップロード・ラスバーンはそれを拒否、やむなく、狙撃手によるオリジナル・ラスバーン殺害が決まる。だが、アップロード・ラスバーンがオリジナルに銃撃を注意したため、人質とオリジナルの両方が死ぬことになる。アップロード・ラスバーンはその結果に悔い、自殺を遂げる。
作中の法律
- コピー人格が動き出した時点でオリジナル人格の人権・社会的アイデンティティはコピーのほうに移行する(自分が二人いることは不可能なため)、オリジナルはそれを了承するとした契約を事前に交わす。
- 人格コピー時のオリジナル消去は許されていない、医師による自殺ほう助が許されていないのと同じこと。
- そのためオリジナル人格は立ち往生になり、死ぬまで飼い殺しされることになる。
議題
- まず、この作品の感想を
- 作中の法律は問題だと思うか?だとしたら何が問題なのか?どのように改良すればいい?
- 人間の意識ですら情報として扱えるようになった時代にはどのような問題が出現し、それに対してどのような法律ができるか?(意識のデジタル化による不死はもちろん、その意識データをコピペして増殖させたり、改造したりすることが可能となる。また、数限りなく新たな様々な種類の人工意識が生まれてくるだろう、更に現代の人間よりも格段に高度な知能を持った強化人間やAIも出現する)
- AI技術が進歩し、ラブプラスのキャラでさえ意識を持ち得る時代には、ゲームデータのリセットは殺人を、外界の存在を説明せずゲームキャラとしてのみ従事させることは奴隷労働を意味する?
- なにが人権の対象となる知性体なのかということをどのように決めるのか?(『人権』という概念が大きく変わる?)
読書会で出た意見
レポーターより
- 前に読書会をやったスタニスワフ・レムの「第二十三回の旅」ではコピーによりその人の意識は連続するか?という哲学的な問題をテーマにしたが、今回は一応意識が連続するとして、その場合、法的にはどのような影響があるか?という社会的な問題をテーマにしたい。
作品について
- オリジナルの寿命が来るまで待ってからコピーの方を起動させれば問題解決
- それは冷静な突っ込みだ
- 作中の法律は安易すぎ、まじめに考えてはない。
- イーガンほど思考実験してはいない。ソウヤーは良くも悪くもエンタテイメント作家。
- プラグマティズムに基づいてオリジナル殺すっていう方向に行くんじゃね?
- 「性的保全」という表現がカッコイイ
ここで未来の性的エンタテイメント技術の話となる
作品に戻り
- なんでラスバーンが決心を覆したの?この場合契約したラスバーンが悪い。
- 法学部だったら人権があるかないか、ゼロか1か、救済できるかできないかの二元論だけれど、経済学部だったらお金で解決して部分的に救済する。
- 変質した未来の法律だっていうのに現代の法律意識に左右され過ぎ、オリジナルに人権がないのであれば殺せばいいじゃん。
- ソウヤーってついにイーガンぱくったの?
- いや、こういう類いの話は昔から書いてるよ。
- こんな技術を作ることは倫理的にダメじゃない?ロボットを生かすために人殺すのは本末転倒なような……。
- いや、このような技術は良い悪いは置いといて必ず実用化されるだろう、そのときどのように対応するかだ。
- こんな技術が可能になったら道徳的なことは置いておかれてプラグマティズムにより実用化されるであろう。
- 自分で自殺すれば解決だ。
- オリジナルの人権剥奪なんてラディカルなことやってんだからオリジナル殺害してもいいような。
- 社会権は剥奪されたが生存権は残っているのかな?
- コピーされたラスバーンは脳卒中がなくなっているのだから元のラスバーンとは別人だろう。
- オリジナルとコピーを別の人間だと定義すれば解決
- →それは財産権とかで混乱するだろう
- →それらも含めて全て法改正する、全く違う法概念を作る。
- ただ単に「衝撃的な未来」を作っているだけで、あまり真剣に考えてはいない。
- パラダイスヴァレー(オリジナルが飼い殺しされていた施設)から出る必要が感じられない。極楽じゃないか。
- オリジナルとコピーを決闘させて、どっちが人権手に入れるか決めれば?
- ロボットに勝てるかよ、生身が不利すぎ
- (意識が連続しているか、という問題に対して)普段でも意識が連続しているのか不明なんだから、コピー後も同じような行動してれば連続していると見なせばよい。
- ネット上のデータを意識として読みとれたら問題が起こる。
- パラダイスヴァレーの性的サービス員は人間じゃないものとセックスしなければいけないのですごい苦痛だな。
人間の意識ですら情報として扱えるようになった時代にはどのような問題が出現し、それに対してどのような法律ができるか?
- 人間の違法コピーが禁止される。
- ネット上に大量のあずにゃん意識が流出し、その意識をいいように使う者たちが出現し問題に。
- 原則として、ネット上への意識の公開は禁止。単純所持も禁止、たとえ自分の意識コピーでもそれに対して虐待する恐れがあるため所持禁止。
- 非実在青少年法みたいな、あの法律は時代に先駆け過ぎたわけか。
- 意識の著作権ができて、JASRACみたいな団体がコピー体の権利を保護することになる。
- アップロードされた意識は自分がダウンロードしていいか左右する権利(被ダウンロード権)を持つ。例えばギャルゲーのキャラクターAIは無条件にダウンロードされることなく、ゲームプレイヤーの性格を見てダウンロードされるかどうか決めることができる。
- 人権の基本的な考え方は「各人は一人しかいない」というものであるが、ここか崩れるので、大きな変動が起こるだろう。
- 個人主義がなければ生贄が認められるとか。
- この話、年代物歴史SFにしたらどう? ○○年人格コピー技術誕生、○○年ラスバーン事件起こるとか。
- 人間より知能の高い存在(以下ポストヒューマン)が出現したら、それらに人間が規定される。
- ポストヒューマンは現代の政府よりもよい政治してくれるんじゃない?
- それは、政治というより「管理」だろ
- そのことが良いか悪いかなんて人間が考えられることではない、本質的にポストヒューマンは人間よりも上位の存在なのだから。
- この作品、ロボットに人権があるとしている時点で今の法律と根底が違う、だから法学部の意見を聞かれても……。
- コピー意識は(静止した)データの存在のみだったら人権はない、そのデータが動かされた時点で人権が添付される。
AIの人権について
- AIが多数派になり、力関係がAI有利になると人権添付せざるおえなくなる。
- AIに対しては限定的に人権を認めるという一種のカースト制となる。例えば人間として意識を持った知性体には権利がたくさんあるが、ゲームキャラクターとして意識を持った知性体には限定的な権利しか与えられない。
- それじゃあ、ポストヒューマンは人間よりもたくさん権利を持つのか?
- ポストヒューマン自体が社会のフレームとなる、一昔前の神や現代の国家と同じようなものとなる。
- 神や国家は抽象的なものだけど、ポストヒューマンは具体的な存在なので「完全な統治」が出現しそう。
- AIに無闇に人権を与えてしまうと社会が混乱して維持できなくなるのでは?
- それは奴隷制肯定意見としても使える論法だな。
- AIは人間と違う、人間の尊厳を保障するものは意識だけではない(肉体など)、一方、AIは意識だけだ。
- 何か目的があって生まれたAI(道具としてのAI)は人権添付しなくていいんじゃない?
- 人間と同程度の複雑性を持ち合わせているのなら、人権を添付していいはずだ。
- AIに対して「この電源を切ったら死ぬよ」と脅して「嫌だ!」と答えるかもしれないが、それはただの作られたプログラムとしてそう反応しているだけだ、電源を切っても良い。
- それじゃ、あなたに銃突き付けて「この引き金を引いたら死ぬよ」と脅して「嫌だ!」と答えたら、それはただ単に進化によってそう反応するようにプログラムされているだけなんだから、殺しても良い、という結論になるじゃないか。
- そう反応するように作られたプログラム(AI)と結果としてそうなった人間は違う。
- 両者の反応・行動が全部同じなら、同じ気持があると仮定して(同じくらい複雑性があるとして)も問題ないんじゃない? だから、AIには人権添付すべき。
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