石ノ森章太郎「きりとばらとほしと」, 萩尾望都「ポーの一族」(2010-01-14, 三科)

I 石ノ森章太郎「きりとばらとほしと」

1 作者紹介

1938年1月25日、宮城県登米郡中田町石森に父・康太郎、母・カシクの長男として生まれる。中学生1年生になると、正岡子規の随筆に名を借り、マンガ同人誌『墨汁一滴』を作るが、2号であえなく廃刊。翌年には、「毎日中学生新聞」の漫画投稿欄に4コマを初投稿、入選。以降、投稿マニアとなる。高校2年の春には、手塚治虫氏より"シゴトヲテツダツテホシイ"という電報を受け、学校を休んで上京。中間テストをはさんで手塚治虫のアシストをする。

1954年12月、『漫画少年』新年号の「二級天使」によって、連載デビュー。1956年、宮城県立佐沼高校卒業と同時に上京し、漫画家生活に入る。1961年8月には、各出版社から原稿料を前借りし、集英社「取材記者」の肩書で出国。シアトルの「SF大会」に出掛け、そのまま70日間世界一周の旅に出る。1964年には、利子夫人と結婚。この時の仲人は、手塚治虫であった。1966年、「ミュータント・サブ」「サイボーグ009」で第7回講談社児童まんが賞を受賞。以降、1968年には、「ジュン」「佐武と市捕物控」で第13回小学館漫画賞、1988年には、「HOTEL」等で第33回小学館漫画賞、「マンガ日本経済入門」で第17回日本漫画家協会賞・大賞をそれぞれ受賞している。1998年1月28日、順天堂病院にて死去。享年60であった。尚、その死後に、生涯の全作品によって、彼に勲四等旭日小綬章、日本漫画家協会賞、文部大臣賞が与えられた。また、マンガとマンガ界への長年の貢献に対して手塚治虫文化賞・特別賞も贈られている。

2 作品紹介

初出は、「少女クラブ」1962年夏の増刊号(付録)。作品は、「きり」「ばら」「ほし」の三部作によって構成されている。第1部「きり」は19世紀イギリスの怪奇小説の名手、ジョゼフ・シェリダン・レ・ファニュの「吸血鬼カーミラ」(Carmilla)を意識した内容になっている(例えば、作中のラミーカとはカーミラの変名を想定したものである)。「吸血鬼カーミラ」は、「聡明な慎み深い婦人」による回想という手法で、吸血鬼カーミラとの遭遇を描いた作品である。創元推理文庫にて、表題作として刊行されている。萩尾望都自身が、「この作品(「ポーの一族」のこと――筆者註)を発想したのは、石ノ森章太郎先生の「きりとばらとほしと」という作品を読んだのがきっかけでした。主人公は吸血鬼で死ぬことはない。その目線で「過去」「現在」「未来」を語っていく3部構成が「おもしろいな」と思いました」と語っていることから考えても、「ポーの一族」を考える際に欠かすことができない作品である。

3 ストーリー

第1部「きり」1903年7月  オーストリア

きりのなかから突如現れたラミーカ。ラミーカはリリの家に滞在することになるが、リリと遊んでいる最中に、ラミーカは「あなたに永遠の命をあげるわ」といってリリを一族に加える。しかし、その騒動により自らが吸血鬼であることが発覚したラミーカは、胸に杭を打ちこまれ消失してしまう。そして、リリは吸血鬼として永遠の命を生きることになる。

第2部「ばら」1962年8月 日本

交通事故によって一時的な記憶損失に陥ったリリは、彼女を保護してくれた家に於ける殺人事件に巻き込まれることになる。事件を吸血鬼による犯行に偽装しようとした真犯人を暴いたリリは、犯人によってナイフで刺されるも死ぬことはない。自らの手の中でバラを枯らした後、「吸血鬼よ、ほんものの…、ぬれぎぬをきせられてだまっていられなかったの」という言葉を残して、その場を去っていくのだった。

第3部「ほし」2008年9月 アメリカ

突如爆発した火星探査ロケット船団。その原因を調査しに向かったリリと恋人のヘンリーは、神話上の怪物に襲われてしまうが、実はそれらは探査隊員が作成したロボットにすぎず、探査隊員は、みな火星のもっとも進化した生命であるというビールスによる吸血病に感染していて、今や全人類は吸血鬼に変異させられてしまったのだ。唯一人の例外、ヘンリーを除いては。ヘンリーは薬のおかげで、リリによる吸血でも吸血鬼にはならなかった。しかし、最終的に、吸血鬼になることを拒んだヘンリーは、「ぼくは地球人だ、最後まで」という言葉を残して自殺してしまう。

II 萩尾望都「ポーの一族」

1 作者紹介

1949年5月12日、炭坑街である福岡県大牟田市に4人兄弟の次女として生まれる。高校2年生の時に手塚治虫の「新選組」、特に丘十郎が大作を斬る様に命じられるシーンに強く感銘を受け、本気で漫画家を志す。1969年、同郷の漫画家、平田真貴子のつてで講談社に作品を持ち込み、そこで「何か短い作品を」と言われ、その時に書きあげた「ルルとミミ」が『なかよし』夏休み増刊号に掲載され、漫画家デビュー。同年10月頃上京し、竹宮惠子と共同アパートで生活し、後に24年組(他に、大島弓子や山岸凉子、山田ミネコらがいる)と呼ばれることとなる漫画家たちと切磋琢磨の日々を送った。その後、描きたいSFをテーマにした作品が採用されない時期が2年ほど続き、竹宮に伴われ小学館へネームを持ち込んだ。そこで編集者の山本順也に可能性を認められ、「自由にわがままに思い切り描かせたい」という方針のもと、本領を発揮するようになる。

1972年には、中学時代に読んだ石ノ森章太郎の「きりとばらとほしと」の吸血鬼の設定をもとに、「ポーの一族」の連載を開始した。この「ポーの一族」の単行本化は、初版3万部を3日で完売したという。1976年には、「ポーの一族」、「11人いる!」で第21回小学館漫画賞、1980年には、「スター・レッド」、1983年には「銀の三角」、1985年には、「X+Y」で星雲賞コミック部門、1997年には、「残酷な神が支配する」で第1回手塚治虫文化賞マンガ優秀賞、2006年には、「バルバラ異界」で第27回日本SF大賞をそれぞれ受賞している。好きなSF作家として、アイザック・アシモフ、フィリップ・K・ディック、ヘンリー・カットナー、ロバート・A・ハインライン、レイ・ブラッドベリを挙げている。

2 作品紹介

言わずと知れた傑作(告白するなら、いつもの天邪鬼な性格のおかげで、僕は去年初めて読んだわけですが…)。石ノ森を介したファニュの影響が窺えるように、作中にはゴシック小説の雰囲気が漂っている。「ポーの一族」は、1972年から76年にかけて発表された全部で15の作品からなっている物語である。

萩尾望都自身、「最初は「ポーの一族」「メリーベルと銀のばら」「小鳥の巣」の3つの長編を考えたのですか「長編」を描くにはまだ早いと編集部に待ったをかけられたので、3つの作品の間をつなぐ小エピソードを考え、よみきりになるように構成して、それらを先に発表していくことになった」と語っているように、当初は「きりとばらとほしと」のように三部作での構成を練っていたようである。

萩尾望都は、「ポーの一族」の連載の開始される前の1972年12月10日付けの雑誌のイラストエッセイで、「筆者は吸血鬼の兄妹のお話をかきたくてうずうずしているのです」と書いているように、もともとはエドガーとメリーベルを中心に捉えた話であったようである。エドガーは14歳、メリーベルは13歳。この兄妹の関係は、エドガー・アラン・ポーとその妻ヴァージニアの関係の反映とみてよいだろう。エドガー・アラン・ポーは27歳の時に13歳のいとこであるヴァージニアと結婚しているわけだが、ヴァージニアのことを"sjssy"と呼んでいたという。ここで、ヴァージニアは24歳の若さで死んでしまうが、その後のエドガー・アラン・ポーの生活はますます荒んだものになったという。ヴァージニアの死後、2年後にエドガー・アラン・ポーも40歳にて死亡している。その死後に発表された彼の最後の詩、「アナベル・リー」には、彼のヴァージニアへの深い愛情が現われているので、以下に掲載する。尚、日本語訳に関しては、適切なものが見つからなかったので、レポーターがそのセンスに基づいて独自に作成したものである。

Annabel Lee

It was many and many a year ago,
In a kingdom by the sea,
That a maiden there lived whom you may know
By the name of Annabel Lee;
And this maiden she lived with no other thought
Than to love and be loved by me.

I was a child and she was a child,
In this kingdom by the sea:
But we loved with a love that was more than love -
I and my Annabel Lee;
With a love that the winged seraphs of heaven
Coveted her and me.

And this was the reason that, long ago,
In this kingdom by the sea,
A wind blew out of a cloud, chilling
My beautiful Annabel Lee;
So that her high-born kinsmen came
And bore her away from me,
To shut her up in a sepulchre
In this kingdom by the sea.

The angels, not half so happy in heaven,
Went envying her and me -
Yes! that was the reason (as all men know,
In this kingdom by the sea)
That the wind came out of the cloud one night,
Chilling and killing my Annabel Lee.

But our love it was stronger by far than the love
Of those who were older than we -
Of many far wiser than we -
And neither the angels in heaven above,
Nor the demons down under the sea,
Can ever dissever my soul from the soul
Of the beautiful Annabel Lee;

For the moon never beams without bringing me dreams
Of the beautiful Annabel Lee;
And the stars never rise but I feel the bright eyes
Of the beautiful Annabel Lee;
And so, all the night-tide, I lie down by the side
Of my darling -my darling -my life and my bride,
In the sepulchre there by the sea -
In her tomb by the sounding sea.

アナベル・リー

遠い昔の話をしよう
そこは、海のほとりの王国
そこに暮らしていた少女の名前を、あなたも知っていることだろう
彼女の名前は、アナベル・リー
僕への愛と僕からの愛
この二つの想いの中で、彼女は生きていた

僕はまだ幼く、彼女も幼かった
そこは、海のほとりの王国
僕たちは、たんなる愛を超えた愛情で結ばれていた
僕と僕のアナベル・リー
それは、僕らの愛を知ったとき
翼を生やした大空の天使たちが、思わず羨むほどだった

そう、これがあの日の理由なのだろう
そこは、海のほとりの王国
雲を吹き飛ばした風は、一瞬にして凍えさせてしまった
僕のかわいいアナベル・リーを
そして、彼女の高貴なる縁者がやってきて
僕のもとから、彼女をさらってゆくと
墓所へと連れて行ってしまった
そこは、海ほとりの王国

かの天使たちは、天国にいても、僕らの半分の幸せさえ手にできなかった
だから、彼女と僕を羨みつづけた
そう!これこそが理由なのだろう、そして、それは誰もが知っている
そこは、海のほとりの王国
あの夜、雲を吹き飛ばした風は
僕のアナベル・リーを凍えさせ、その息を止めてしまった

だけど、僕らの愛は他のどんな愛よりも強かった
それは、僕らより生きた人々のものよりも
それは、僕らより優れた人々のものよりも
天空にはばたく天使であっても
海の底にひそむ悪魔であっても
この魂の絆を引き裂くことはできない、僕と
僕のかわいいアナベル・リーの絆を

月が夜を照らすときはいつでも、僕はそこに夢を見る
かわいいアナベル・リーの夢を
星々が空にのぼるときはいつでも、僕はそこに光を見る
かわいいアナベル・リーの輝く瞳の光を
だから、上げ潮の夜は、僕はそのかたわらにそっと横になる
僕の愛しい、僕の愛しい、僕の命、僕の花嫁のかたわらに
今では、海のほとりの墓所の中
潮騒響く墓所の中

3 一行あらすじ(発表順)

・「すきとおった銀の髪」(別冊少女コミック1972年3月号)72.1
少年チャールズは、時を隔ててメリーベルと二度にわたりで会う
・「ポーの村」(別冊少女コミック1972年7月号)72.5
グレンスミス、ポーの一族の暮らす村に滞在し、ポーの一族に関する秘密を知る
・「グレンスミスの日記」(別冊少女コミック1972年8月号)72.6
グレンスミスの死後、彼の日記はその子孫へと受け継がれ、その玄孫はエドガーやアランと遭遇する
・「ポーの一族」(別冊少女コミック1972年9~12月号)72.10
ポーツネル一家はエドガーを残して消失し、エドガーはアランを伴って去って行く
・「メリーベルと銀のばら」(別冊少女コミック1973年1~3月号)72.12
一族に加わったエドガーは、オズワルド家と自らの出生の秘密を知った後、メリーベルを一族に迎え入れる
・「小鳥の巣」(別冊少女コミック1973年4~7月号)73.5
ロビンに会いにきたエドガーとアランは、ギムナジウムでその死の真相に直面することになる
・「エヴァンズの遺書」(別冊少女コミック1975年1~2月号)74.11
記憶をなくしたエドガーは、一時的にエヴァンズの孫のもとに身を寄せることになる
・「ペニー・レイン」(別冊少女コミック1975年5月号)75.3
アラン、覚醒!
・「リデル・森の中」(別冊少女コミック1975年6月号)75.4
リデルが、エドガーやアランと共に過ごした日々の物語
・「ランプトンは語る」(別冊少女コミック1975年7月号)75.5
エドガーとアランに関わった人々の物語が、ジョン・オービンによって纏められていく
・「ピカデリー7時」(別冊少女コミック1975年8月号)75.6
エドガーとアランが、ポーの村に連れて行ってくれるというポリスター卿の消失の真相を暴く
・「はるかなる国の花と小鳥」(週刊少女コミック1975年37号)75.7
エルゼリの悲恋に涙するエドガーであった
・「ホームズの帽子」(別冊少女コミック1975年11月号)75.9
オービン、エドガーに初めて遭遇
・「一週間」(別冊少女コミック1975年12月号)75.10
「一週間!つべこべうるさく言うエドガーはいないんだ、じゃ好きなことができるんだぞ!」
・「エディス」(別冊少女コミック1976年4~6月号)76.4
エディスとその兄弟に出会ったエドガーとアランを待ち受けていた運命とは?

III 作品比較

IV 論点

※基本的には、いつものように、気の向くまま、想いの向くままに

【「きりとばらとほしと」】

【「ポーの一族」】

【全体的に】

【最後に】


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