アレクセイ・クルチョーヌィフ Алексей Елисеевич Кручёных (1886-1968)
オデッサの美術学校に学び、モスクワに出て未来派運動に加わった。ザーウミを駆使したラジカルな実験詩や一連の綱領的論文で、同時代に強い衝撃を与えた。革命時はトビリシに赴き、当時の未来派たちと行動を共にしたが、革命後、その作品は雑誌『レフ』以外に掲載されず、30年代に形式主義者として批判された後、文壇から姿を消した。
『ロシア・アヴァンギャルド5 ポエジア』
初演は1913年12月2日、ペテルブルグのルナ・パルク劇場。二幕六景により構成されるオペラ。以下大筋。
前口上 ここのみフレーブニコフによる。未来人(作者らロシア未来派の意だろう)が観客を、時空を超越する劇場空間に招く。
第一景 未来人の怪力が、宇宙の撃破をもくろみ太陽を覆う。ネロとカリギュラが全世紀を歴訪する旅行家に反発。
第二景 怪力たちの讃歌。
第三景 インターバル。葬儀屋の唄。
第四景 第10の国々から来た太陽の運搬人。太陽=鉄器時代の終わり。
第五景 超時間的な未来世界。過去を持たない未来人たち。
第六景 飛行機事故が起こるが飛行士は無事。未来人怪力の「世界滅ぶとも われら怪力に/終わりなし!」
クルチョーヌィフの台本、フレーブニコフの前口上、マレーヴィチの舞台装置、マチューシンの音楽によって実現したオペラ『太陽の征服』(二幕六場)は、アインシュタインの登場によって同時代人の関心に大きく浮上してきた「四次元」の神話を、SF風のドタバタ喜劇でイメージ化したパフォーマンスである。怪力の未来人によって過去の文化のトータルなシンボルである太陽が捕獲され、蝕の闇に蔽われた世界から、時間を超えた第10国家(35世紀)が現出する。ある批評家はこのオペラに「飛行機を含むテクノロジーの擁護」を見たが、パイロット志願の未来人カメンスキーの実際の体験にもとづく飛行機の墜落、未来人の奇跡的生還という意外な幕切れは、むしろ未来人の原始的な不死性をアピールするものとなった。そしてそれは、時間のシンボルたる太陽の捕獲ののちに訪れる無時間世界(四次元)のもつ意味とも正確に呼応していたのである。
『ロシア・アヴァンギャルド』