2006/8/19
レポーター:高橋
大島弓子「綿の国星」


0.書誌データ
・初出:「LaLa」1978年5月号
・底本:大島弓子『綿の国星@』(白泉社文庫)

1.作者
 大島 弓子(おおしま ゆみこ、1947年8月31日 - )は、日本の漫画家。栃木県出身。萩尾望都、竹宮惠子、樹村みのり、青池保子らとともに、団塊世代の少女漫画家「24年組」の一人に数えられる。
 1968年『ポーラの涙』でデビュー後、雑誌「少女コミック」「デュオ」等で活躍。1978年に発表した『綿の国星』は大きな反響を得、虫プロによりアニメ化もなされた。主人公の子猫を幼い少女の姿で描いたこの作品をネコ耳の元祖とする説もある。また、『毎日が夏休み』および『金髪の草原』は実写映画化、『秋日子かく語りき』はNHK「ちょっと待って、神様」というタイトルでテレビドラマ化もなされている。
 1979年(昭和54年)度、第3回講談社漫画賞少女部門受賞。(『綿の国星』)
 独特の詩的な言葉づかい、細い線を紡いだ繊細でシャープな描画、そしてなにより、読者の世界観を軽く一変させてしまうような独特の物語哲学が高く評価され、代表作多数。朝日ソノラマ社より刊行されている全集に代表作のほとんどが収録されている。(wikipedia)
→山岸涼子が抜けてる(☆)。
→一条ゆかりも昭和24年生まれ(☆)。
→連載当時はまだ猫を飼っていない(☆)。

2.登場人物
・チビ猫:本編の主人公。雌の子猫。時夫に拾われる。
・須和野時夫:浪人生。大学受験に失敗し、自棄気味になっている。
・須和野飛夫:時夫の父。ユーモア小説家。
・須和野二三子:時夫の母。いつも割烹着な良妻賢母。猫アレルギー。
・ラフィエル:美猫。チビ猫に猫の世界について教えつつ求愛する。
・美津子:ひっつめみつあみ。法科の大学生。時夫の一目惚れの相手。
・瑠璃動静:詩人。猫マニア。ラフィエルを捕まえようとしている。

3.あらすじ
 チビ猫は捨てられて死にかかっていたところを時夫に拾われる。時夫の母は猫アレルギーであったが、受験に失敗し自暴自棄になっていた時夫のなぐさみになるならと家で飼うことを許す。チビ猫は「猫は成長すると人間になる」と信じており、いつか人間になって拾ってくれた時夫と結ばれることを夢見ながら、須和野家で暮らす。
 ある日、時夫は本屋でみつあみと出逢い、恋に落ちる。チビ猫はあせり、早く人間になりたいと願うがラフィエルが現われ、猫は人間にはなれないと告げ、猫の死体を見せる。その上で猫の猫たる素晴らしさを教えようとし、チビ猫はいずれ綿の国の王女ホワイトフィールドのような美猫になるという。チビ猫は反発し、人間の真似をしようとするものの失敗して、時夫に怒られ家出する。反省し、時夫と和解したチビ猫は時夫とみつあみの縁結びをする。
 復活した時夫は猫マニアに捕まったラフィエルを助ける。チビ猫は須和野家を離れ、野良猫になるためにラフィエルと旅に出ようとする。しかしラフィエルは迎えに来ない。須和野一家はチビ猫を探し回り、猫アレルギーだった母親がチビ猫を捕まえ、受け入れる。チビ猫は須和野家に留まる。

4.論点
4-1.登場人物
@チビ猫

・なぜ主人公が猫?
→少女心理を表している。言葉が通じないなど、少女と大人の間には猫と人間ほどの距離がある。
→行動力を確保しつつ、世の中を新鮮な目で見ることが出来る。
「人間の少女だと、何にでも好奇心を持って奇抜な発想をするような幼さは、それを生かせるだけの行動の自由や能力とは、なかなか両立しない。(中略)動物ファンタジーが便利なのはそこのところで、人間の発達段階をなぞらなくていい動物ならば、幼い子どもの感性を保ったままで、人生の大問題にたくましくぶつかっていくこともできるのである」(4巻p.232)
→「綿の国星」は貴種流離譚(☆)?
→『いちご物語』(白泉社文庫)のあとがきに「いちごはチビ猫になったきがする」との作者コメント(☆)。

・「猫は成長すると人間になる」と信じているとはどういうことか?
→猫心理の一種。人間が考える猫の心理なので、人間寄り・人間中心になる。
→人間になる=時夫と結ばれる?
→「人間になりたい」=「理想的な家族の一員になりたい」(☆)。

・「綿の国」「ホワイトフィールド」とは何か?
→『大島弓子選集9巻』(朝日ソノラマ)のあとがきに綿の国星は「ワタシハワタノクニガホシイ」の略との作者コメント(☆)。

・なぜ時夫とみつあみの縁結びをしたか?
→片思いの相手と恋敵をくっつける。現実を受け入れる。成長?
→ラフィエルの存在、ホワイトフィールドになるという予言によって、猫であることを受け入れられた。「えーい わたしはいい猫なんだ わたしはやってやる!! 」(p.74)
→ラフィエルだけでなく、時夫・お母さんの存在もあった(☆)。
→名シーン「鳥は鳥に」。武士の恋は忍ぶが至極。

・なぜ須和野家に留まったか?
結ばれないと知りつつ時夫と暮らし、ホワイトフィールドを夢見る。
→モラトリアム延長?
→須和野家や時夫も神秘的な現実の一つ。須和野家で暮らしていても猫の生活の素晴らしさは味わえる。
第一(の恋人)が時夫、第二がラフィエル、第三が時夫のお母さん、時夫のお父さん、ヨーデル猫にひっつめみつあみ」(p.177)

A時夫
 受験に失敗し自棄になっていたが、チビ猫の視点から、物事を新鮮な目で見返し、ひっつめみつあみと交際することが出来た。

Bラフィエル
・何者?
→4-2.脇理論へ。
→チビ猫を誘う水先案内人(☆)。
→善いメフィストフェレスみたいな感じ?

4-2.ストーリー解釈
・脇明子理論(文庫版4巻解説)

 通常の少女漫画では理想の男性とは結ばれず、身近な少年と付き合うというパターンが多い。しかし、「綿の国星」では理想の少年が浪人生時夫で、身近な男性が美猫ラフィエルと転倒している。よって、ラフィエルは結ばれるべき身近な男性ではなく、神秘的な猫の世界(チビ猫のとっての現実)を表している。
なぜラフィエルは来なかったのか。それはたぶん、ラフィエルの本質が、「カモーン」という不思議な呼び声そのものだったからだ。大島さんが描こうとしているのは、もはや「別世界の男性」の夢から「身近な少年」の夢へというささやかな成長ではない。夢はどこまで行っても夢に過ぎず、「猫は人間になれない」ことを悟ったいま、少女は、現実には現実の神秘があり、それは少女の夢よりももっと奥深いものでありうることを予感する 」(4巻p.231)
→シリーズ後半になるとチビ猫の成長が止まる(☆)。

・河合隼雄理論(『猫だましい』新潮文庫)
  恋愛ではなく家族、チビ猫と時夫ではなくチビ猫と時夫の母親の関係が中心の物語。母親の猫アレルギー=思春期アレルギー。時夫は恋人ではなく兄。
「チビ猫には恋人も必要だが、やはり大切なのはお母さんである。(中略)しかし、この例のように、少女の家出を契機にして、二人の仲(母と娘)が回復することはよくある」(p.225)
「時夫は兄ではないのかと思う人があるかもしれないが、それこそ少女の特徴で、兄と恋人が同一人物というのが理想なのである。ほんとうの恋人よりは少し安全で、ほんとうの兄よりは少し危険なところが、ぴったりくるのである」(p.222)
→チビ猫は前のお母さんに捨てられた。「母親」との関係を回復する必要あり。
→産みの親も不明。
→「ド・シー」「ギャザー」など母親中心の話がある。
→1話以降、時夫・ラフィエルの出番は少なくなり、お母さんがよく出てくる。

5.その他、読書会で出た意見
・時夫のお母さん=作者
結婚しておらず、子供もいない作者が自分のために書いた物語。チビ猫=自分の子供。お父さんが小説家なのも作者の分身だから。

・大島弓子はマイナー作家だった
→衝撃の事実。「綿の国星」発表前はほとんど知られておらず、マイナー中のマイナーだったらしい。萩尾望都・一条ゆかりがメジャーだったとか。「綿の国星」は売れたものの、その後は消えた作家のように思われていたらしい。それなりに量も書いているのですが。いつから再評価されるようになったのでしょう。まさか岡崎京子からですかね。


底本&参考/引用文献
大島弓子『綿の国星全4巻』1994
大島弓子『大島弓子選集9巻』(朝日ソノラマ)1985
大島弓子『苺物語』(白泉社文庫)1997
河合隼雄『猫だましい』(新潮文庫)2003