2006/6/3
レポーター:高橋
大島弓子「バナナブレッドのプディ ング」


0. 書誌データ
・初出:月刊セブンティーン1977年11月号〜1978年3月号(集英社)
・底本:『バナナブレッドのプディング』(白泉社文庫)


1. 作者
 大島 弓子(おおしま ゆみこ、1947年8月31日 - )は、日本の漫画家。栃木県出身。萩尾望都、竹宮惠子、樹村みのり、青池保子らとともに、団塊世代の少女漫画家「24年組」の一人に数えられる。
 1968年『ポーラの涙』でデビュー後、雑誌「少女コミック」「デュオ」等で活躍。1978年に発表した『綿の国星』は大きな反響を得、虫プロによりアニメ化もなされた。主人公の子猫を幼い少女の姿で描いたこの作品をネコ耳の元祖とする説もある。また、『毎日が夏休み』および『金髪の草原』は実写映画化、『秋日子かく語りき』はNHK「ちょっと待って、神様」というタイトルでテレビドラマ化もなされている。
 1979年(昭和54年)度、第3回講談社漫画賞少女部門受賞。(『綿の国星』)
 独特の詩的な言葉づかい、細い線を紡いだ繊細でシャープな描画、そしてなにより、読者の世界観を軽く一変させてしまうような独特の物語哲学が高く評価され、代表作多数。朝日ソノラマ社より刊行されている全集に代表作のほとんどが収録されている。(wikipedia)
☆ 読書会で出た意見
・山岸涼子が抜けている。
・映画「毎日が夏休み」「金髪の草原」は割りと面白い。
・「綿の国星」は白泉社なのに講談社漫画賞を受賞。(☆)


2. 登場人物(奇妙でかみあわない人物たち)
・三浦衣良:本編の主人公。イライラの衣良。
・三浦沙良:衣良の姉。衣良曰く「神様みたいな人」。衣良を置いて結婚してしまう。
・母:衣良の母。衣良のやることなすこと泣く。
・父:衣良の父。衣良のやることなすことため息をつく。
・御茶屋峠:さえ子の兄。漁食家なナイスガイ。
・御茶屋さえ子:衣良の幼馴染。奥上に片思い。
・奥上大地:男色家。教授と付き合いつつも峠に思いを寄せる。1話とそれ以降でキャラが違う。
・新潟健一:峠の大学の教授。奥上のムッシュ。峠に嫉妬する。「烙印だ、この色情魔!」は名台詞。

☆ 読書会で出た意見

・衣良はイラクサ。
・教授の名前が新潟なのは彼がサド(=佐渡島)だから。


3. あらすじ
 衣良シナリオ(衣良-峠の関係)とさえ子シナリオ(さえ子-奥上-教授-峠の関係)が平行して進む。ここではさえ子シナリオは省略。
 三浦衣良は精神的に問題を抱えた女の子。異様に純粋で自分の世界を持っており、それが周囲(特に両親)から理解されないことに苦痛を感じている。神様のようだと慕っていた姉も結婚してしまう。そんなある日、衣良は転入先の学校で幼馴染のさえ子と再会する。さえ子は衣良の異常に気づき、ボーイフレンドを作ることを勧める。しかし、衣良の提示した理想の男性像は「世間にうしろめたさを感じている男色家の男性」だった。さえ子は衣良のため、兄の峠に男色家の振りをさせ衣良と偽装結婚させる。初めは抵抗していた峠だが、衣良の異常を悟り、偽装結婚に付き合うことで衣良のライナスの毛布となる。しかし、衣良に男色家の振りをしていただけであることがバレてしまい、衣良は御茶屋家を出て、新潟教授の元へ向かう。教授宅で暮らすも峠への愛憎から衣良は夢の中の人喰い鬼に食べられてしまい、自分も人喰い鬼になったと思い込む。酔っ払った教授に首を絞められた衣良は抵抗し、教授をナイフで刺し殺してしまったと誤解する。家を飛び出し、夜道を走る衣良。父や母を見ても怯えて話が通じない。御茶屋家に逃げ込んだ衣良は峠の言葉に救われ、そこで暮らすことになる。


4. 人物(三浦衣良と御茶屋峠)
@三浦衣良

・少女?
少女漫画読者の抱える不安・葛藤を漫画的に誇張して体現した人物(☆)。
→少女の持つ特性とは何か?

・人喰い鬼とは何か?
→性的なものの象徴?
衣良は性的なものを受け入れられない。性的未熟、大人になることがテーマ。
同性愛など様々な性が書かれていること、ラストで「男に生まれたほうが生きやすいか、女に生まれたほうが生きやすいか」という問答があることからも性がテーマ?
→死、殺人などの象徴?
もっと象徴的な負の感情全般?

・薔薇のしげみとは何か?
→弱者、社会的に認められない繊細なもの(少女の世界?)。衣良の認められない自我の象徴。

・周囲の無理解
特に両親。精神鑑定にかけようとする。既存の社会的規範を押し付ける。

・世間にうしろめたさを感じている男色家の男性
これを支えることで衣良は自分の世界を持ったまま自己実現を果たそうとするが、失敗。
「わたしはなにをしていいかわからない またもとの衣良に」(p.114)
→そもそも正しい自己実現の方法だったのか?
→理想の男性像といいつつ、恋愛対象としての男性ではない。(☆)
→仮の自己実現。峠との偽装結婚の中で衣良は峠を愛し始めていた。(☆)
→さえ子の思惑通り、通常の恋愛を始める。それに対する衣良の反発。「性的未熟」という問題の顕在化。

A御茶屋峠
・衣良のことをどう思っているのか?恋愛対象なのか被保護者なのか?
→二人の関係は対等ではない。
→峠は保護者となることで自己実現を果たしている。(☆)
→恋愛感情をあり。取り巻きではなく、内面のある女性を求めていた。(☆)
→成長物語は子供から大人へ、自分の価値観を捨て社会的規範へ取り組まれるという一方的な流れではなく、子供と大人のいいとこどりをする弁証法的展開が繰り広げられる。子供のままでもダメだし、普通の大人になるものよろしくない。新しい思想・哲学・生き方が求められる。
→峠はすでにそれを体現してしまっている。大人の対処能力と子供の感性を併せ持つ。
→未熟な子供同士のカップルが力を合わせて新しい価値観を手に入れるというのが現代的。
→現代の少女漫画では正しい恋愛ではなく、多様な恋愛が描かれている。(☆)


5. 少女漫画における内面の誕生
・恋愛感情以外の心理が描かれるようになる。
→複雑な内面。思春期の悩み全般(特に性的なもの?)。
→ドラマティックなだけの恋愛劇ではなく、同時に哲学的・文学的な問題が扱われる。大島作品はそういう問題を設定しておいて、これ以上はないというような落としどころに持っていくのですごい。
→「恋人による内面の理解」が恋愛の成就のみならず哲学的問題の解消にもなる。
→さらにそういった繊細な内面を持っていることが、恋人が他の誰かではない自分を愛する理由付けになる。
→現実の読者の需要への対応?

・トラウマ
→その人物の内面を100%描写するのは不可能。全的肯定(「君の全部が好き」とか)が難しい。
→トラウマは内面の洗練された姿。その人物の象徴であり、それを理解(肯定)することは全的
肯定に等しい。大島作品の場合、何らかのキーワードが設定されることも多い。
→児童期の性的虐待などが多い(吉田秋生とか)。登場人物は幼い日に起きたショックな出来事を現在まで引きずっており、成長が果たせないでいる。
→本作の「薔薇のしげみ」がこれに当たるのではないかと。


6. ラストシーン
一番の見せ場。なぜこんなに感動的なのかを検証。

・プロット
錯綜しているように見えるが、衣良シナリオだけ見るとちゃんとラストに向かって収束していっている。つまり、どんどん主人公を不幸な境遇に陥れていき、どん底にきたところで一気に頂上まで押し上げる大逆転劇だったりする。
・衣良、問題を抱えている(もともと精神不安定)
・衣良、峠と偽装結婚(精神状態、上昇)
・衣良、峠が自分を騙していたことに気付く(下降)
・衣良、人喰い鬼に食われる(下降、発狂ライン寸前)
・衣良、教授を刺したと誤解(急下降、発狂ライン突破?)
・衣良、峠によりトラウマの解消(大逆転)

・エピソード

あらすじ補足を参照。衣良の不安定さを表現。

・トラウマの解消

「ぼくはきみが大好きだ。薔薇のしげみのところからずっとね」(p.200)
→薔薇のしげみは衣良の認められない自我の始まり。それから何をすればよいか分からず、人喰い鬼に追いかけられながらずっと苦しんできた。それが理解される。
→峠の理解は断片的なもの。流れ?(☆)
→一方的な理解ではなく、峠も苦しみを抱えていた。(☆)
→奥上くんのこと?
以上が組み合わさり、ラストの名場面になっているのではないかと。

・最高に素晴らしいこととは何か?
→衣良の身に起こったこと?
→もっと抽象的な何か?
→未来への希望のようなもの。あるいは両方(☆)。
→衣良と沙良がダブる。(☆)


7. その他、読書会で出た意見
・時間がキーワード
「今日は明日の前日だから、だから怖くて仕方ない」で始まり、「また明日ね」で終わっている。「バナナブレッド〜」は衣良が未来を肯定できるようになるまでの話である。

・食物、食欲がキーワード
「バナナブレッドのプディング」のタイトルはバナナが男性、プティングが女性を表している。

・花
衣良はバックに薔薇をしょわない。人喰い鬼と奥上くんはしょう。女性性の現われ?

・メタファーとメタニミー
メタファーとメタニミーの関係から読み解く。メタファーは結婚など開いたものであり、メタニミーは近親など閉じたもの。メタファーへ向かうべきだが、メタニミーのほうが心地よい。偽装結婚やドッペルゲンガーなど、「バナナブレッド〜」では両者が錯綜している。


参考文献
・橋本治「花咲く乙女たちのキンピラゴボウ」(河出文庫).1984

・妖精現実「バナナブレッドのプディング」
(http:/www.faireal.net/articles/1/01/#c90620 )

・wikipedia「大島弓子」
(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E5%B3%B6%E5%BC%93%E5%AD%90)

・カルアミルク「作品年表」
(http://www.geocities.jp/youmiey/kahluamilk/30allworks.html)