開催日:2005/12/24
レポーター:高橋
課題:ドストエフスキー『白夜』
RESUME
第36回クリスマス読書会
ドストエフスキー『白夜』
1、作者紹介
フョードル・ミハイロビッチ・ドストエフスキー(1821〜81)。ロシアの大作家。
社会主義運動のサークルに所属していた件で捕まり、特赦で死刑を免れ、シベリアへと送られる。以後、作品は深化を遂げ、俗に五大長編と呼ばれる小説群『罪と罰』、『白痴』、『悪霊』、『未成年』、『カラマーゾフの兄弟』を書き上げた。『カラマーゾフ』は文学史上最高の名作らしい。『白夜』は1848年の作品。
2、あらすじ
冴えない男が酔っ払いに絡まれている女を助け、交際が始まったものの、女には結婚を約束した男がおり、キープされたあげく捨てられるという、リアル電車男@ロシアな話。
第1夜:主人公がストーキング中、偶然にも対象(ナースチェンカ)を酔っ払いから助ける。
話をし、明日また会う約束をする。
第2夜:ナースチェンカの打ち明け話。ナースチェンカに結婚を約束した男がいることが発覚。しかし、その男はナースチェンカの元には帰ってこない。主人公はナースチェンカとその本命の男との間を取り持とうとする。
第3夜:本命の男、現れず。徐々にナースチェンカは主人公になびく。
第4夜:本命の男、未だ現れず。落ち込むナースチェンカに主人公は愛の告白をする。ナースチェンカは受け入れ、二人は結ばれそうになる…が、直後本命の男が現れ、ナースチェンカは本命の元へ神速で走り去る。主人公、ポカーン。
朝 :ナースチェンカから手紙が届く。「これからもいいお友達でいましょう」。主人公は男泣きに泣きながらも彼女の幸せを願う。
3、論点
T.この男どうよ?
a.スペック
26歳。彼女いない暦=年齢。薄給。中年の女中と二人暮し。割と教養がある。
→いわゆるアキバ系
b.陰湿・不器用・もてない
なにしろ私はこれでもう八年もペテルブルグに住んでいながら、ほとんど一人の知人を作る才覚もなかった男なのだから(p.5)
確かに、ぼくは女性に対してひどく臆病です。ぼくは興奮しています。(中略)いや、ぼくはたとえ夢のなかでも、誰か女の人と話をすることがあろうなどと思ったことはありません(p.16)
なにしろぼくはもう二十六歳にもなるというのに、今まで誰にもこれという人にあったことがないんですからね(中略)とにかく嘘じゃありません、女性は一人も、それこそ一人も、ぜんぜん知らないんです!まったく付き合ったことがないんですよ!(p.18)
→初対面で喪トーク。
c.空想家&脱空想家
ありとあらゆることについて空想するんですからね……はじめは認められなかったが、後に月桂冠を授けられた詩人の役割、ホフマンとの友情(中略)、自分の片隅、そしてそのそばには美しい少女が冬の夜、小さな口をポカンと開け眼を輝かして彼の話を聞いている、ちょうど今あなたがぼくの話を聞いているようにですね、ぼくの可愛い天使……(p.42)
それにこうしてあなたのそばにいると現実にこんなにも幸福なんですから、何もいまさら空想することなんかありませんよ!(p.48)
→現実>空想?
d.ナースチェンカへの行動、彼の口説き方
・本命との仲を取り持つ。
せめてぼくなりとその人のところへ行ってみてはいけないかな?(p.70)
→下心あり?
・お友達扱いされて泣く。でも、嬉しい。
「ああ、ほんとにあなたはすばらしいお友達ですわ!」(中略)その瞬間、私はなんだか恐ろしく悲しい気持ちになった。とはいうものの、なにか笑いに似たものが私の胸の中でもぞもぞと動き出した(p.78)
→お友達ですら嬉しい?もしくは壊れた?
・回りくどい告白(巧みな話術?)
これからぼくの話すことはみんなでたらめです、実在不可能なことばかりです(中略)しかし、ぼくはあなたを愛しているんです(p.94)
→他人のことを語っているようで自分のことだったり、いけると思いつつどうせ無理と言ったりする。
・男泣きに泣く
しかし、ナースチェンカ、侮辱されたことをいつまでも根にもつ私だろうか?(中略)君の心の空のいつまでも晴れやかであらんことを(中略)ああ!至上の法悦の完全なひととき!人間の長い一生にくらべてすら、それは決して不足のない一瞬ではないか?……(p.114)
→空想生活に戻る?
U.この女どうよ?
a.スペック
17歳。厳格な祖母と女中との三人暮らし。祖母の年金と部屋の賃貸しで生計を立てている。祖母にピンで留められている。
→貧しい美少女。祖母との暮らしから抜け出したい。
b.主人公への行動、彼女の口説かれ方
・キープ
あたしがあなたを愛しているのは、あなたがあたしに恋をなさらなかったからなのよ。だってもしほかの人があなたの立場にいたとしたら、きっとやたらに世話を焼いたり、うるさくつきまとったり、ためいきをついてみたり、苦しそうな顔をして見せたりするに違いありませんもの。それなのにあなたはなんてすてきなんでしょう!(p.78)
→なに、この予防線?
じつはあなたがた二人を較べてみたんですの(中略)あたしはあの人をあなたよりもずっとよけい愛しているにはちがいないけど、確かにあの人はあなたより劣っていますわ(p.84)
どうだかわかりませんわね。もしかすると、あたしの愛情だってはじめから終りまで気の迷いだったのかも、錯覚だったのかも知れませんわ(p.102)
→本命に脈がありそうなら主人公はお友達扱い、脈がなさそうなら恋愛対象
→悪女?
ああ、なんという叫び声!ギクリとふるえた彼女のからだ!そして私の手を振りほどいて、彼のほうへ走り寄った彼女の素早い動作!(p.109)
→縮地?
あなたは永遠にあたしの親友、あたしの兄なのですもの(p.112)
→キープ続行?
・自己正当化
それで、もちろん、すべての罪はあたしのやさしい心にあるということになりましたの(p.28)
どうかあたしのことを移り気で、浮気な女だなんて思わないでくださいね(中略)あたしはまる一年間もあの人を愛し続け(中略)それなのにあの人はそれを軽く見て、あたしをからかったんですわ(p.102)
「どうかあたしをお責めにならないでください、だってあたしはあなたを裏切るような真似はなにひとつしなかったんですもの」(中略)「でも、あなたもご存知のように――愛していれば、いつまでも侮辱されたことを覚えていられるものではありません。そしてあなたはあたしを愛していらっしゃる」「ありがとうございます!」(p.111)
・巧みな話術
あたしはあの人を愛しています。でもその愛はいずれ冷めてしまうでしょう(中略)あなたがあたしを愛していらっしゃるように、あたしもあなたを愛していますわ(p.100)
→同じ愛という言葉を、ある時は友情という意味、ある時は愛情という意味とで使い分ける。
・現実的
お祖母さんには年金がついてますもの(中略)でもお祖母さんは引き取らなくっちゃ(p.104)
V.愛ってなに?
なんなんですかね?
参考:恋愛資本主義
本田透の著書「電波男」にて提唱されている概念のひとつ。
現代の日本で常識とされている恋愛の形。
さまざまな解釈が可能であるが、主に
・個々人の恋愛行為が、メディアや広告代理店の流布する大量のイメージに縛られ、資本の論理に汚染されている状況
・純愛物語が、安直な映画・ドラマ・書籍などによって金儲けの道具にされ(娯楽のレベルに落とし込まれ)、逆に恋愛の至高性が失われている状況
・「年収○○○万以上でないと」のような、金持ちであることが恋愛の条件になり、愛情とお金(や車・家など)が交換可能になっている状況
・そもそも愛情などという観念が消え失せ、恋愛・結婚がお金(や車・家など)と顔面の美しさの交換と化している状況
・恋愛行為が、他人に相手を見せびらかしたり他人に優越感を持ったりする目的で行われ、他者の欲望を欲望するという契機のもと、資本主義的な差異の体系に(ボードリヤールの意味での「商品」を買うときのように)取り込まれてしまう状況
・人を愛するということが、物を買うこと(そのために高い服を買う、出会い系を利用する、クラブに行ってみる、高い車を買う、高い料理を食べる等)と同一の規律として内面化されている状況