開催日:2005/11/22
レポーター:斎藤
課題:サミュエル・R・ディレイニー『アインシュタイン交点』
RESUME
果たして何人来るのか読書会、あるいはひぃたんの反応にハアハアする会
サミュエル・R・ディレイニー『アインシュタイン交点』(ハヤカワ文庫)
(著者紹介)
サミュエル・R・ディレイニーは1942年生まれのアメリカの作家。黒人でゲイで語盲(ワード・ブラインドネス、文字の認識の障碍)。代表作とされる短編集『時は準宝石の螺旋のように』は復刊ドットコムで規定数に達したがまだ交渉は始まってない。最近長編『ノヴァ』が発売されたが、高い。
(あらすじ)人類が去った後の地球。人類にとってかわったミュータント達の物語。
山刀で音楽を奏でられるロ・ロービー(下半身はゴリラ並)は恋人のフライザを突然失う。彼女に死をもたらした者に復讐し、そして彼女を取り戻すためにロービーは山刀を手に旅立つのであった・・・。
(読み方)
一度読んで表層を眺めただけではSFともファンタジーともつかないへんてこな小説である。だが、メタファー(同一性と差異を生み出す)を発見しつつ再読したとき、この小説の深層、真の姿が見えてくる。必ず二度は読むべし。なにゆえこれが「スペキュレイティヴ・フィクション」なのかを納得すべし。
登場人物の表層での姿を述べる
(表層)
ロービー:男のミュータント。恋人フライザを殺したキッド・デスに復讐し、フライザを取り戻すために旅にでる。山刀で音楽を奏でられるが、また他人の心の音楽を奏でる超能力を持つ。一度死んだが何故か蘇る。結局フライザを生き返らせることはできなかった。物語の最後では地球を出ることを示唆する。
フライザ:女のミュータント。唖だが念動力を持つ。キッド・デスに殺される。
キッド・デス:人の生死を操れる超能力者。フライザを殺す。スパイダーに自分の父を殺させた過去を持つ。最後はスパイダーに殺される。
スパイダー:四本の腕を持つ、ドラゴンの牧夫のリーダー。念動力も持っている。色々なことに通じていることや蔵書が多いこと、女房が二人に十人の子持ちと言っていることからかなり年長と思われる。グリーン・アイへの死刑宣告に賛同した。キッド・デスを殺す。
グリーン・アイ:唖の少年。テレパシー能力を持つ。ブラニング・アト・シーで処刑される。
では深層ではどうなるか。
(深層その1)オルフェウス神話 オルフェウスは竪琴の名手。死んだ恋人エウリュディケを取り戻すために冥界に行き、冥王ハデスの心を竪琴の音で動かし、エウリュディケを地上に戻す許可をえるが、地上に戻る前に後を振り向いてはならないという条件に背いてしまいエウリュディケは再び冥界に落とされる。
オルフェウスはロービーであり、エウリュディケはフライザであり、ハデスはキッド・デスである
(深層その2)キリスト神話
グリーン・アイはキリストであり、スパイダーはユダである。
(深層その3)神話とのずれ、新たな伝説
この小説で神話について直接述べられているのはp25−26、p118、p227においてである。この小説が神話を下敷きにしているのはその1、その2の通りであるが、だが神話と小説の間にはずれがある。
p143においてスパイダーは「何かが起ころうとしてるんだ、ロービー、昔彼ら(引用者注:人類)が存在したころに起こった何かが、今・・・・・・」と言い、それに対してロービーは「古い話はうんざりだ、やつらの物語なんか。やつらとおなじじゃないんだから。ぼくらは新しいんだ」と返す。そしてp197においてスパイダーは「人類の残りものの語彙では定義もできないような何か」が起こりつつあると述べる。p227においてダヴは「わたしたちは彼らの姿や神話を取り込もうと努力してきた。だけど合わないのよ。幻影なわけ」と述べる。この小説では我々人類の神話がミュータント達によって反復されつつも差異を伴い、そして新しい伝説が生まれつつあるのを我々は見るのである。
(深層その4)科学・宗教・音楽
P235でキッド・デスは「グリーン・アイとおまえ(ロービー)とおれ(キッド)」と3人を並べて言っている。グリーン・アイがキリスト、すなわち宗教を象徴しているのは言わずもがなであり、キッド・デスはp91での登場のシーン、p156のグリーン・アイへの誘惑のシーンから見て、科学を象徴していると読める。そしてロービーであるが、ロービーが山刀のオルフェウスであることから、彼は音楽を象徴していると読める。
では音楽とは何か。作品中で音楽(とくにロック)が取り上げられている所を挙げると、p27,p67,p102,p113,p143,p145,p161,p205である。そしてこれらの部分では音楽が生命とつなげられている。p145「死はない。あるのは音楽だけ」のように。
人類の作り出した科学と宗教からミュータントたちが解き放たれたとき、そこに現れるのは生命としての音楽なのではないだろうか。この作品には1960年代という熱い時代の熱い音楽が持っていた生命力が封じ込められているのだ。
(論点など)
メタファー、引用など見つけた?他の読み方は?誤読歓迎。
1967年の時代的背景、SF史について。
黒人、ゲイ、語盲、SFというマイノリティー文学ってどういうのがあるの?
(読書会後の付記)
出口は神の神話から人間の物語へのシフトがこの物語だ、としたが、レポーターは人間ではなくあくまでミュータントであることが重要だと思う。ミュータント、すなわち新人類であり、これがディレイニーの自己認識ではないだろうか。
あと仮説にすぎないが、ロービーが復活したのはロービーの力のおかげだという記述があり、またグリーン・アイは復活しなかったことから、ロービーはあらたなキリストではないかという考え方もある(レポーターの主張)。
(レポーターが見つけたメタファー、引用一覧)
・ p25 ビートルズは言わずもがなの戦後最大の影響力を持ったバンド、英国のザ・ビートルズのことであり、リンゴとはドラムスのリンゴ・スターである。ア・ハード・デイズ・ナイトとはビートルズのアルバム及び映画の題名。
・ p26 ザ・グレイト・ロック・アンド・ザ・グレイト・ロールは中にRock’n Rollを含んでいる
・ p38〜 牛との戦いはクレタ島のクノッソスの迷宮でのミノタウロスとアテネの王子テセウスの戦い
・ p52 カルメンとはビゼーのスペインの闘牛師を主人公としたオペラのこと。
・ p73 エルヴィス・プレスリーはアメリカのロックの大物
・ p109 コダーイは20世紀のハンガリーのクラシック作曲家
・ p128 スパイダーマンはアメリカのコミックのキャラクター
・ p138 処女生殖は聖母マリアの受胎
・ p139 キリスト生誕のときには東方の三賢者が訪れた
・ p142 キリストは自分が死刑になることをわかっていて最後の町を訪れた
・ p150 ウエスタンとは西部劇のこと
・ p154 Rock and Roll
・ pp156-159 山上でのキリストへの悪魔の誘惑
・ p162 ここでのスパイダーの姿はあきらかに西部劇のヒーローのそれ
・ p201 イスカリオテとはキリストを売った使徒イスカリオテのユダのこと。冥府の門を守る大判官ミノスとは古代ギリシャ伝説中のクレタの王で、死後ゼウスによって冥府の審判者とされた。
・ p203 十字架に磔にされるのはキリスト
・ p207 西洋絵画ではユダはキリストを売って手に入れた銀貨の袋を持つのが定型
・ p208 トロイのヘレンとはトロヤ戦争の原因となった女性。
・ p230 キリストは死後復活した
他、いたるところでrock,rollが使われている。