DATA

開催日:2005/11/21
レポーター:浜岡
課題:H.G.ウェルズ『宇宙戦争』

RESUME

H.G.ウェルズ『宇宙戦争』―The War of The Worldsの継続と変容―

 


【執筆者紹介】
Herbert George Wells(1866−1946)
 1866年9月21日英国ケント州プラムリー生。理科師範学校(現ロンドン大学インペリアル・コレッジ)入学、ダーウィン主義の信奉者であるT.H.ハックスレーに師事。王立科学協会設立に関与(1909年同会長)。1902年漸進的社会主義団体であるフェビアン協会に参加。第一次世界大戦では一時戦時プロパガンダ局に勤務、戦後は国際連盟設立に尽力、1946年8月13日歿。
『タイム・マシン(1895年)』で作家デビュー。『モロー博士の島(1896年)』『透明人間(1897年)』『解放された世界(1914年)』『ブーン(1915年)』ほか代表作多数。本作は1897年より英『ピアソンズ』誌および米『コスモポリタン』誌に連載され、1898年に単行本で出版された。


【あらすじ】
 火星からの侵略者が地球に上陸したとき何が起こるかを描いた物語で、一人のイギリス人の口を通じ、侵略者がそれを防ぎとめようとする軍隊のあらゆる努力にもかかわらずロンドンに侵攻してくるさまを語っている。
 二束にまとめた八本の手と大きな頭のみを持つ火星人たちは、熱線と毒ガスを放射する三脚の戦闘機械を駆ってイングランドを蹂躙、全世界を恐怖に陥れる。ロンドン市民は恐慌状態に陥り、ロンドンは彼らに占領される。人類の敗北とその火星人への隷従を、語り部である「わたし」が確信したとき、占領者たちの体内には異変が生じつつあった…

[時系列]
第1日 第一の宇宙船到着(ホーセル公有地)。
第2日 第二の宇宙船到着(アドルストーン)。
第3日 第三の宇宙船到着(パイフォード)。
     英国軍と火星人、ウェイブリッジ郊外で戦闘を開始。
第4日 第四の宇宙船到着(ブッシー・パーク)。
第5日 第五の宇宙船到着(シーン)。
第6日 第六の宇宙船到着(ウィンブルドン)。
     火星人、ロンドン占領。
第7日 第七の宇宙船到着(プリムローズ)。
    火星人、サウスエンドに到着。
第8日 ロンドン地域に毎日宇宙船到着(〜第10日)。
第19日 火星人全滅。


【関連作品】
ラジオドラマ版(1938年) ハワード・コッチ脚本。マーキュリー・シアター出演。
映画版(1953年) バイロン・ハスキン監督。パラマウント配給。
映画版(2005年) スティーヴン・スピルバーグ監督。UIP配給。
『ヴィーナス戦争』(1898年) グレイヴス/ルーカス著。
『エジソンの火星征服』(1898年) ギャレット・サーヴィス著。
『タイタンの妖女』(1959年) カート・ヴォネガット著。
『第二次宇宙戦争』(1976年) ジョージ・H・スミス著。
『トリポッド』(1990年) ジョン・クリストファー著。
『インディペンデンス・デイ』(1996年) ローランド・エメリッヒ監督。FOX配給。
『マーズ・アタック!』(1997年) ティム・バートン監督。ワーナー配給。

【作品をめぐる論争】
◆小説としての『宇宙戦争』
・ウェルズにとってのSF―未来「予測」と科学的「幻想文学」
・最初の「集団パニック」小説
・「正典」としての『宇宙戦争』
・キャラクターの不在


◆作品内容
[反帝国主義と黄禍論]
(1)反帝国主義

 ウェルズは要するに、仲間である英国人に対してこういっているからである。「見たまえ、これが未開人であることがどういうことか、そこへマキシム銃を持った西欧人が文明化させるためにのりこんできたときどう感じるかということなんだよ!」と。
―オールディス(1973年)、138頁。

 ズールー族の大酋長ケテワヨと、彼らの文化が作り出した最高の槍と盾を持つ戦士たちが、ウルンディの戦いで大砲と速射銃の集中攻撃の前にひとたまりもなく敗れたのは、『宇宙戦争』の刊行よりわずか十九年前のことだった。ウェルズはその英国人を、こんどは軍事的発明の猛威にさらされる側においたわけだ。
―テン(1988年)、64頁。

(2)黄禍論
 地球を襲うタコ型火星人に代表される異星からの侵略者のイメージには、西欧文化圏以外の覇者が発揮する恐怖と蠱惑とがまったく同時に投影されている。
―巽(2001年)、94頁。

 だが、いちばん肝心なのは、そもそもアジア系差別を表し日清・日露戦争とともに流通していく「黄禍」(yellow peril)の語源自体が、『宇宙戦争』とまったく同年1898年に発表されたもうひとりのイギリス作家M.P.シールの未来戦争小説『黄色い脅威(Yellow Danger)』から来ていることだろう。(中略) ウェルズと同じく、ここでシールもまた、アジアという名のウィルスを根絶するために、もうひとつメタレヴェルにおけるウィルスを発動させている。
―同上、96頁。


[進化の果てとしての火星人]
 彼らにそなわっているのは大きな手、巨大な頭脳、やわらかで潤んだ情感に満ちた目。筋肉系全体、脚、下腹部は萎縮してなくなり、彼らの精神に垂れさがった付属物と成り果てている。
―ウェルズ(1893年)、54頁。

 しかし、この小説は、単純な反帝国主義の物語では決してない。なぜなら、故郷の星を捨てて宇宙に可能性を求めた火星人のとった道は、いずれ人類もたどらねばならぬ道とされるからである。ウェルズのエピローグは、火星人と地球人が宇宙制覇をめぐってしのぎを削る運命にあることを強く暗示するものとなっている。(中略) 火星人のもたらした究極の恩恵というのは、ユートピア的なものとはほど遠い。「人間の公益観念」という言葉も、この文脈からは、どうやら、人類をより優秀な軍隊へと組織化するためにわざわざ持ち出されてきたように思われる。
―パリンダー(1980年)、138頁。


[倫理との交錯]
 ウェルズのSFは、"科学的寓話"から成り立っている。なぜなら、それらは本質的に人間の道徳的判断と、科学の性質に関する暗い不安感、それに現実の科学的ヴィジョンという人間の結論を具体化した物語であるからだ。
―テン、64頁。
 
知的生物は、単に適者生存だけでなく、「倫理的に最も高度なものの生存」の必要性を見きわめなくてはならない。(中略)ウェルズの惑星間寓話の教訓はそこにある―「われわれがそうしたように、いつかはわれわれも、ひょっとすると近いうちに、殺されるのではなかろうか?」
―テン、66頁。

[Alienの寓意]
 1890年代、『宇宙戦争』発表直後には、火星人はまさしくアジアからの他者を表象した。ところが1900年代から1910年代後半にかけて、火星人はすでに「黄」「黒」「赤」すべての脅威を反映する他者と化している。(中略)
 未来戦争物語といえども、いや未来戦争物語であるからこそ、それが書かれ撮られた時代ごとのイデオロギーを決して免れることはない。
―巽、98−99頁。


【論点】
(1)本作品は、現代において「正典」たりうるか?また、そうでないなら、それはどうしてか。


(2)「宇宙戦争」三代:本作・映画(1953年)・映画(2005年)

【参考:時代背景】
1900年における先進諸国(ポール・ケネディ『大国の興亡 上』鈴木主税訳、草思社より作成)

総人口

工業化水準

鉄鋼生産

平均所得

イギリス

6位

1位

3位

2位

アメリカ

2位

2位

1位

1位

フランス

7位

4位

5位

4位

ロシア

1位

7位

4位

5位

ドイツ

3位

3位

2位

3位

オーストリア

4位

5位

6位

6位

イタリア

8位

6位

7位

7位

日本

5位

8位

8位


【参考文献】
ハーバート・G・ウェルズ(中村融訳)「百万年の人間」『SFマガジン』第592号(2005年8月)
ブライアン・オールディス(浅倉久志ほか訳)『十億年の宴』(東京創元社、1980年)
巽孝之『「2001年宇宙の旅」講義』(平凡社新書、2001年)
ウィリアム・テン(浅倉久志訳)「ふたりのウェルズ 火星人最初の襲来」『SFマガジン』第592号(2005年8月)
パトリック・パリンダー(大橋洋一ほか訳)『SF 稼動する白昼夢』(頸草書房、1985年)


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