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吉田秋生『ラヴァーズ・キス』
1、作者紹介
少女漫画家。1956年生まれ、東京都出身、武蔵野美術大学卒業。1977年、別冊少女コミックに「ちょっと不思議な下宿人」でデビュー。1984年、『河よりも長くゆるやかに』及び『吉祥天女』で小学館漫画賞受賞。2001年、『YASHA-夜叉-』で同じく小学館漫画賞を受賞。
同性愛、虐待による心的外傷を扱った作品が多く、特にアクション巨編『BANANA FISH』は漫画史上に残る名作。百合漫画『櫻の園』は映画化もされた。
2、登場人物
藤井朋章…イケメンで頭が良くて運動神経抜群で金持ちの息子なスーパーエース。母親に襲われた過去がある。
川奈里伽子…美人で表向きは優等生だが、裏では遊びまくり。小学生のころ、教師に悪戯された過去がある。妹との仲は険悪。
鷺沢高尾…今ひとつエースにはなれないが、運動も音楽もかなりの腕前なメガネ男子。藤井のことが好き。
緒方篤志…通称、オオサカ。鷺沢くんを追って鎌倉まで来た。
川奈依里子…里伽子の妹。なんでも口に出すストレートな性格。姉とは不仲。美樹のことが好き。オオサカとは親友。
尾崎美樹…里伽子の親友。里伽子のことが好き。藤井とは幼馴染。
3、あらすじ
3つの視点から成るマルチビュー方式。
@男×女
藤井朋章⇔川奈里伽子。
A男×男
藤井朋章←鷺沢高尾←緒方篤志、男のだらけ三角関係。
B女×女
川奈里伽子←尾崎美樹←川奈依里子、女だらけの三角関係。
4、論点
@マルチビュー
一つの物語を複数の視点から見る形式。
ある視点からは何気ないように見えた言動が、他の視点から見ると実は深い意味があったりする。
「実は〜だったんだ!」というミステリちっくな演出がしやすい。
代表的なのは『街』『パルプ・フィクション』『ブギーポップ』とか。
マルチビュー起動の例。
p62&p172 鷺沢くんの「…知りませんけど」→実は鷺沢君は嘘をついてる
p196&p289オオサカの告白シーン→エリと美樹が盗み聞きしてる。
p120&p234 藤井の出立シーン→実は鷺沢くんは泣いてる。
A同性愛
・ラブストーリーにおける障害としての同性愛。
ラブストーリーには障害が必要。何の障害もなく恋愛が成就してはカタルシスがない。
具体的な障害としては
昔…封建制度、戦争(『ロミオとジュリエット』、『風と共に去りぬ』)→リアリティを失う。
今…同性愛、病気、近親婚(『メゾン・ド・ヒミコ』、『世界の中心で愛を叫ぶ』、妹萌え)
不倫は今も昔も盛ん。
B心的外傷
・自己の象徴としてのトラウマ。
全的肯定を求めるが不可能。
代理として自己の象徴たる何かを形成(ここではトラウマ、通常は夢)。
それが肯定されれば、自分の全てを肯定されたも同然となる。
という素敵なロジック。
『ラヴァーズ・キス』の場合、肯定まではいかず、理解というべき。
トラウマがアイデンティティにもなっている。
・運命の人の条件としてのトラウマ
恋愛至上主義において、恋人は特別でなくてはならない。
外在的な条件に左右されてはならない→条件次第でその人でなくてもよくなってしまう。
トラウマを分かってくれたら、その人が特別。さらに相手にもそれを求める。
・成長物語の障害としてのトラウマ
トラウマにより社会や世間から疎外されている。
恋愛成就と同時に解消される。
・優しさや感受性が恋人の条件となる→オタクに優しい。
顔や金など客観的な基準ではなく、心などの主観的にしか計れない基準。
強い感受性の例。
p.121 藤井「幸せかどうかなんて本人にしかわかんねーよ」
p.281~2 美樹「それは違うよ」「お姉ちゃんは男に気後れしちゃうんだよ」
p.364 何も聞かないお姉ちゃん。
C家族愛
親に問題のある藤井家、姉妹仲の悪い川奈家。
対照的に鷺沢家、尾崎家は理想的。
にも、かかわらず美樹は「ずっとあそこにいたいとは思わない」(p.333)
Dなぜ鷺沢くんに萌えるか?
結局、この漫画を好きになれるかどうかは鷺沢くんを好きになれるかどうかだと思う。
藤井を見送るところは最高の名場面(p.234)。
名シーンの理由。
・原風景発現、しかし掴めず
男×男の話の冒頭で鷺沢くんの原風景が示される。
「2人のお互いを見つめるまなざしはそれはそれは優しくて…ああ、好きあっているんだな――と子供心にも感じた」
「何より確かなものに思えた」
「おれはあんなふうにだれかを好きになりたいと思った」(p.131)
冒頭の場面をなぞる形で、最高の理想である原風景を片思いの相手が自分とは別の人と叶えている。
・藤井への忍ぶ恋
最後まで告白せず。恋は忍ぶが至極。しかし、泣いてしまう。
・マルチビュー発動
以上の要素が組み合わさり、ただでさえ大きい失恋のカタルシスの振り幅を増している。
ノーマル、ホモ、レズの話があって、ホモ話が一番面白いのはさすが吉田秋生。
5、読書会で出た意見と感想
・同性愛は肉欲から離れた精神性の高いもの。
→衆道。恋愛至上主義と合致。
・藤井くんはカレカノの有馬くんと似てる。(まぁ、少女漫画だし…)
・エリちゃんが一番人気。次が美樹。全員、鷺沢くん萌えだろうと思っていたら、俺ともう一人しかいやしねえ。イケメン藤井くんは人気なし。
・現代っ子にはこの程度のトラウマでは刺激が足りない。
・同性愛には理解はあるが興味はなしという感じ。
・同性愛はよくても近親相姦はダメ。
これは親から子供みたいに力関係に差がある場合と、
兄×妹、姉×弟みたいに力関係が近い場合とで違うかと。
・海・月は女・母親のメタファーだとかなんとか
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