開催日:2005/5/12
レポーター:河村
課題:北杜夫「駿馬」
RESUME
北杜夫「駿馬」(『消えさりゆく物語』より)
* 著者紹介
北杜夫。本名斎藤宗吉。斎藤茂吉の次男。東京青山生まれ。東北大学医学部卒。精神科医として乗り込んだ船での体験をもとに『どくとるマンボウ航海記』を出版し、一躍脚光を浴びる。『夜と霧の隅で』(ナチスの精神科医のお話)で芥川賞を受賞。その後『楡家の人々』、『輝ける碧き空の下で』(ブラジル移民の話)などでさまざまな文学賞を受賞。その文学の活動は幅広く、純文学、童話、エッセイ、はたまたSFまでこなすというナウい一面を持つ。まさに今をときめくスーパー作家!
* 『消えさりゆく物語』について
二〇〇〇年四月に発行された著者最新の短編集。タイトルにもあるように全体的に「消滅」がテーマになっており(特に最後の三篇には顕著)、題材こそ違えど全体的に現実と幻想の対比をモチーフに描かれている。現実からの逃避による消滅、あるいは現実を直視することによる消滅が八篇の短編に収まっている本作、時間があれば他の短編を読むこともお勧めです。とくに「みずうみ」なんかおすすめ☆(ホントはこの短編集まるまる一冊で読書会をやりたかったのですが、レポーターのK氏の告知が遅く、実現しませんでした。すいません)
* あらすじ
家族と近くの公園に行った主人公(著者に酷似)が幻想の中において戦時中のドイツに放り出されるお話。ソ連軍から逃げるために、他のドイツ人に混じってベルリンに向かう主人公であったが、途中で疲れ果ててしまう。そこへ二頭の馬を引き連れた少女(主人公の体験に基づく)が現れ、馬を一頭置いて行ってしまう。その馬を駆って、なんとかベルリンにたどり着いた主人公は、パンツァーファウスト(バズーカ砲みたいなものらしい。このあたりは土屋君が詳しいんじゃないかな?)を片手に携えた、純粋無垢極まりない、しかし死を覚悟した少年兵に出会い、現実に戻ってくる。
* その他諸々
特に論点が無いような気がしますが、強いて聞きたいのは、敢えて二元論で好きか嫌いか?個人的に面白いと思うところは、現実の象徴として登場する主人公の妻の存在です。幻想から抜け出して、夢見心地で感慨にふけっている主人公と、それに対するあくまでも現実的な妻は、対照的であり、現実逃避に失敗した主人公の姿はどこか物悲しいです。あとは少年兵の存在ですね。当時の日本にも同じような境遇の人はいたでしょうし、他人事とは思えません。最後の主人公のセリフ(「〜ああ、日本人も堕落したもんだ!」)は著者のメッセージとも受け取れますが、そんな主人公を現実に引き戻す妻の皮肉めいた言葉は、悲しくもありますが、現実を表面に押し出すことはないが結局最後には現実に戻ってきてしまうというこの短編集のあり方を象徴しているような気がします。
* 最後に
北杜夫は最近じゃほとんど公には出ませんが、個人的にはかなりお勧めの作家です。少しでも興味をもたれた方はぜひ言ってください、好きな本をお貸しします。みんなで北杜夫の印税を増やしてあげよう!