DATA

開催日:2004/11/20
レポーター:関根
課題:山文京伝『Sein ザイン』

RESUME

犬に恋した人妻

・初めに
 またエロマンガか。そう言われそうである。本題に入る前に謝っておくが、その後は粛々と進めたいのでご協力頂きたい。

・題材
 山文京伝 『Sein ザイン』 コアマガジン 1999年

・作者について
 山文京伝のデヴューがいつなのか知らないが、少なくとも商業誌においては初単行本(多分)を95年5月にコアマガジンから出しており、その後フランス書院、コアマガジン両社から単行本を出し続け、現在全部で大体十冊くらいになる。その他同人誌においても「さんかくエプロン」のサークル名でオリジナルのエロマンガを発表しているようだ。
 山文の作品の頻出テーマは人妻と犬と洗脳である。他のも無いではないが、特にどうということはない。犬や洗脳が無くとも、とにかく人妻がいかんとは思いつつもだんだん墜ちていってしまうところを比較的丹念かつ小技を利かせて描写するところがその微妙な人気の理由であろう。絵はアニメ絵の大してうまいものではなく、表紙のカラー絵なんかは見栄えのしない、はっきり言って下手くそなものだが、肝心のシーンでは自分の画力の程度と使い場所をわきまえた味のある描写が時々できているように思う。

・作品について1〜オナニストの視点から
 『Sein』は上に挙げた三つのテーマが全部入っているが、エロマンガとしては大して面白くない。テーマは多ければいいというわけではないのか、詰め込みすぎてエロさもサイコミステリーの面白さも今一感銘を受けるほどではない。あとがきで作者自ら認めていることだが、有体に言って失敗作と言ってよいと思う。例えば、初出一覧に見るように第三話「Tier<獣>」は書き下ろしであるが、これだけエロシーンが取りあえずのところ合格点を与えてよいだけの濃いエロさを保ってはいる。つまり他の本誌連載部分のエロが極めて薄かったということで、これはその穴埋めを行ったのだというわけである。どんなに意義深い内容を盛り込もうがエロくないエロマンガに存在価値は無い。

・作品について2〜SF者の視点から
 あらすじを簡単に述べれば、人妻が拉致監禁の上洗脳されて犬大好き奥さんに様変わりしてしまうというものである。
 主人公摂子が犬好きになってしまった原因は摂子自身にはとりあえず無く、拉致監禁を実行した謎の人身売買組織の洗脳によるものである。その洗脳は作中一応の科学的説明というか、方法のようなものが説明されており、妖しげな術だの魔術とかではない(ゆえにファンタジーではなくSFなのだと考えたい)ことが示されている。
 ここでイーガンを思い出してみたい。以前読書会のネタにもなった『しあわせの理由』(早川文庫)に収められた表題作や他の作品、他の作品集を読むと、大雑把に言って脳への刺激を人工的に与えれば、感情のような今まで外側から弄れなかったものまで弄れるようになった状況というのがしばしば提示される。
 もう一つ、山文の同人作品『憂悶の果て』では、人に惹かれるのはフェロモンとホルモンの為せる動物的反応=欲情であるとし、ある男性の汗の成分を混ぜた薬剤でもって主人公の婦警さんをどうこうするという話が展開している。
 さて、何を話し合って欲しいのかをきちんと述べることにしたい。

・話題にして欲しいこと
 もちろん本作品がエロいかどうかとか、獣姦がいいとか悪いかとかそういうことを話したいわけではない(読書会ではね)。ごちゃごちゃ言わず一言で言うなら、恋に関して、ということになるかと思う。恋というものは一般的にイメージするところでは他者に心惹かれ色々複雑な心理状況や身体的反応を引き起こしてしまう、非常に特別な心の動きであろうと思う。ま、これについての是非はいい。要はネタとして挙げた本作品の提示する恋が、出席者諸君の考えるものとどの程度隔たりがあり、またどの程度重なるかということである。
 例えば少女マンガの第一の頻出テーマはなんといっても恋である。ちょっと生意気な同級生でも素敵な先輩でもかわいい後輩でもいいが、しばしば主人公たる少女が男性と恋をし、それを成就させていくという筋が、恋を主題とする少女マンガの大まかな筋であろうと思う。ここで恋とは、きっかけはどうあれ主人公の内在的な経験によって始まり(やだ、私何でこンな奴にどきどきしてるの?)、そして確たる意思となっていく(私○○が好きナンだわ!)。
 それでは恋は、与えられうるものであるか、自ら得るものであるのか。また前者の形態が存在するとして、後者のほうがよりよいものであると断言できるか。
 化学薬品や色々の方法によって強制的に仕向けられた恋とは、そもそも恋と言えるのか。恋は盲目であるが、無理矢理盲目にしたならばそれは恋した状態になったと言えるのか。
 あるいはまた、恋と欲情は別であるかどうか。恋の次に欲情があるか、欲情は体の動きで恋は心の動きという構造であるか。
 この辺のところを何か他の作品を引っ張ってきてもいいし、関連する学問から何か引いてきてもよいし、個人的経験やそこから得た考えでもなんでもよいと思うので、ま、やってみましょうということである。

・題名について
 三修社独和辞典より
 Sein[ザイン](中性名詞)〔(単数の2格)‐s/複数なし〕(哲学)実在,存在,有;あること
Sein und Schein実在と仮象,実質と外見
※所詮はエロマンガなので深読みの必要はまったくない。

・最後に
 実はもう一つネタがあって、日本SF論争史から面白そうな論文をネタに選び、そこから部員各々のSF観を戦わせてみようというものなのだが、読書会担当と相談した結果こちらをやろうということになった。読書会に参加しなくなってから大分経つため、雰囲気を良く知る読書会担当の助言に従うことにした。こっちのネタで良かったなあという結果を期待したい。


[トップを表示する]