DATA

開催日:2004/7/31
レポーター:向井
課題:グレッグ・イーガン『宇宙消失』

RESUME

グレッグ・イーガン『宇宙消失』  
〜夏休みだしレジュメが砕けたっていいじゃないかの巻〜

 

◆原題
‘quarantine’名詞: 検疫(停船)期間、検疫(所)、隔離、交通遮断

―――――ここには平凡な日常がある、と。
我々が生きている世界も、「平凡な世界」という一つの世界に過ぎないのだろうか・・?


◆あらすじ        
ニック・スタヴリアノスは強化人間である。彼を改造したアンサンブルは世界収縮を企む悪の薬品会社である・・。玻葵を守る為に、彼はアンサンブルと戦うのだ・・・・
2034年、太陽系はバブルに包まれた・・・。だが、まだ人類は死に絶えてはいなかった・・・ってくらいの大事件が起きてから33年過ぎたある日。元警察官・ニックが受けた若い女性、ローラの捜索の依頼。だが潜入した彼は捕まってしまった・・・。 (第一部 完)
《アンサンブル》に対する服従モッドを埋め込まれた彼は忠実に任務をこなす。六ヵ月後、ASRで玻葵<ポークウイ>という女性の護衛をする。彼女は「波動関数の収縮は人間の脳で行われる」事を証明する実験に参加していた。その後、ニックは劉に勧められ「カノン<規範>」の一員になる。そして自分のモッドに起こる現象を劉に話す。劉は、ニックが固有状態操作モッドを使用できているのだと説明し、≪真のアンサンブル≫の為に固有状態操作モッドを盗む計画を立てる。だがニックは、盗んだアンサンブルを劉に奪われる・・・・。そして・・・。

◆登場人物
*ニック・・・主人公。元警官で、脳のモッドを駆使する“ゾンビ警官”。イーガンの作品によく出てくるタイプではあるが、その最大の特徴は、やはりモッドの重要性であろう。脳内に亡き妻がいる。「脳内彼女」や「空気嫁」等の追随を許さない能力があり、先日の和田クンなぞ足元にも及ばない。忠誠モッドやアンサンブルといった特殊なモッドがこの小説のポイントである。
 第二部からは、忠誠モッドを持つ人間として再スタートを切るが、リストラされていないのは不幸中の幸いか。護衛対象である、ウイたそとイイ関係になれる可能性を捨て、脳内を保守する道を取る・・・。人類の中で最も収縮の場数を踏んでいるという、クリリンのような称号を持つ。

*玻葵<ポークウイ>・・・“アンサンブル”を実験する女性。ニックに護衛されている。作中ではニックに(というか読者に?)量子力学の知識を教えてくれるありがたいお人。強いて一箇所取り上げるとするならば242ページのセリフ。

*劉九重<リウキウチュン>・・・ニックを<カノン>に勧誘した人。忠誠モッドの為と言いドキュンな行動を繰り返し主人公を困らせる。

*ローラ・・・ニックが捜索しようとしていた女性。だが中の人は「バブルメイカーの探査者」。

◆ポイント

★量子論――――――――発散と収束、観察という行為
 複数予想される、可能性世界をどう考えるか?
1:まだ人間の研究が未熟なだけ。「神はサイコロ遊びを好まない」
→2:ある主体が“観測”した時点で収束される              
3:全ての可能性世界が存在している、パラレルワールド肯定派

イーガンはこの選択肢に対し、「人間の脳の中で“収束”が行われている」という答えを打ち出した。これにはモッドというSF的アイテムを絡める事で(どちらを先に考えたかは分からないが)一人の人間が、 “発散と収束”という非日常的な事象を操作できる能力を持っている事を可能にさせている。
*モッド“アンサンブル”・・・・収縮阻害と、固有状態操作が可能なモッド。
参考 ‘ensemble’・・・名詞: 総体、全体的効果、全合唱
〜アンサンブルの使い方〜
劉  :ニックが玻葵の脳に侵入している(P219)
玻葵 :「わたしがあなたの願いをかなえてたんだもの」
   ローラ:アンサンブルは用法・使用時間を守って正しくお使い下さい。

▼STEP1 : 【玻葵の】一つの観測者が世界を選択している場合 【観測だいあり〜】
ありうる可能性の全てに拡散し、その中の自分にとって都合の良い未来を“選んでいた”状態になっているので、自分にとっての過去(過程・というか歴史?)は一つしかないように感じる。自分の未来をほぼ思うがままに操れる。

・・・・・・・世界を選択する人間と、その選択の結果を受け入れる人間が同一人物なんておかしいんじゃないの?箱の中に入った猫自身が、生きた自分と死んだ自分を生み出し、生きた方を「世界の選んだ正しい攻略ルート」としてしまえるのってどうなんだろうか? という事でニック自身も色々悩みながら“自分を殺していく”。簡単に言うなら、RPGでプレイヤーは勇者が死ぬ場面を見ようとも、勇者本人にその自覚は無いのである。
実際は、ニックを観測していた玻葵が選択していた、という状況だった、つまり、猫<ニック>の生死をシュレイディンガー<玻葵>が操作していたのだった。

▼STEP2:  【教会では】 複数の人間が世界を選択している場合 【こまめにおいのり】
だが最後には“有り得た可能性の未来に存在する数千人”により、ニックの収縮が、つまりは世界とのリンクが確定されてしまう。時間の非対称性の崩壊。簡単に表現するなら「タイムマシンは存在しない。もし発明されているのなら、未来からやってきたタイムマシンに我々が出会っているはずだ」というのと同様の理屈である。

・・・・・・・香港崩壊というとんでもない現象を起こし、カレンを実体化させたりと“奇跡”が起きる。世界が大騒ぎしている(であろう)中、原因をまるっとお見通しな二人は別れる。被災者収容施設に入ったニックは“平凡な世界”の中で生きている。多世界モデルが現実化した、とあるが、元々この宇宙に多世界が存在しているのなら(上で並べた『3』が世界の真実だとしたら)、今我々が生きているこの世界も数ある世界の一つなのではないだろうか?
そして、もし『2』が世界の真実であったとしても、将来ナノテクが発達して『アンサンブル』のようなモッドが発明されるとするならば、「タイムマシンは〜」の理屈のように『3』が世界の真実となるように“収縮”されるのではないだろうか・・・((((;゜д゜)))ガクガクブルブル


★アイデンティティ
*忠誠モッド・・・・この話は二部構成なので、某漫画の第三部に出てくる「肉の芽」を思い出す人は少ないと思われる。モッドにより忠誠心を生み出されていると自覚しながらも忠誠は褪せる事は無い・・・。当人がアイデンティティについて悩んでいるようだが、こんなものがありふれていた日にはもう・・・(以下自粛)。

*可能性があった自分・・・・拡散している間の自分、は全てアイデンティティを持っている。そして収束した時点で自分が生き残りである事に気付く・・というか確認する。
<詳しくは中本雄一の文章を読んで下さい>

◆個人的にチェックポイント
待てよ・・・・。P362の最初では一行足りてないよな・・・。つまり・・・P362はP358の場面まで、読者がLOADしているんだよ!!


[トップを表示する]