DATA

開催日:2003/11/14
レポーター:出口
課題:神林長平「アルカの腕」

CRITICISM

 この作品を読んで僕が最初に感じたことは「読みやすい」ということだった。元々SFというジャンルとは縁が全くなかったからか、私は普段読みやすいSFというものを読んだことがなかったので、この作品の読みやすさは衝撃だった。しかし、著者はSF作家として名高い神林長平で、世界設定の中には人工臓器の普及といったSF的なものが見受けられる。ということはきっとこれはSFだ!読みやすいSFもあったのか!最近SFを読むのに疲れ始めていた僕は、読みやすいSFの存在に狂喜して、その勢いでためらうことなくこの作品を読書会に挙げることにした。あらすじは以下の通り。元ネタありなので、読んでない人は読み飛ばすといいかもしれない。

 人類が各個体に突如起きる臓器崩壊現象に悩まされている世界。臓器崩壊現象はいつ何時誰に起きるかわからない。それによって人工臓器メーカー「ライトジーン社」は一社独占状態から世界征服を企み、それによって解体される。しかし、ライトジーン社は解体される前にサイファと呼ばれる超能力者を二人作り出していたのだ。そのうちの一人、コウは自由人として気ままに暮らしながらもサイファとしての力を理由に時折警察を手伝う。そんな事件の一つが今回の話。全身が強酸で焼かれたような状態の男が死んだ。どうやらライトジーン社から分かれた会社、アルカ社の人工臓器が変成して襲うようになったらしい。そこでコウは新米刑事とともにその退治へと駆り出された。新米刑事がいらんことをしたせいで危機的状況にはなるものの、サイファの力で敵を討つ。しかし、その代償として新米刑事は腕を失いアルカの腕をつけることとなる。

 この作品で読書会を開いた動機は前述したとおりだが、僕はSF研の読書会なんだからということでこじつけ的にこう考えた。この作品における世界設定は「世界臓器崩壊現象」にSF要素の全てがあるんじゃないだろうか。他の設定は、はっきり言ってしまえばそんなに目新しくはない。特に人工臓器メーカーの一社独占状態というシナリオ、つまりどこかの組織が何かしら権力を握るというシナリオは一昔前の漫画で使い古されている。そして主人公は少しだけハードボイルドを気取っていて、さらに他の人にはない能力を使って敵を討つ。まさに少年漫画の王道だ。多分僕があと5年早くこの作品を読んでいればどっぷりはまったであろうことは間違いない。ということはSFとしては臓器崩壊現象にスポットを当てるべきである。そして「臓器崩壊現象」を使って筆者は、直接的な表現でもって人類という種の限界を打ち出している。ということで「人類という種の限界、寿命」を言いたいんだろう。そしてその主張はSF的だろう、と。

 読書会全体の雰囲気としては、「何でライトノベルが読書会の課題図書なの?」の一言だった。むしろ代わる言葉を捜してみても、なかなかいい言葉が思いつかない。とにもかくにも、この作品のあまりにステレオタイプなストーリーとキャラクターにみんなの非難が浴びせられた。世界設定なども終始「ライトノベルだね」といった暖かくも見放した会話が続き、神林長平ファンすらもどのように擁護すべきかではなく、どこまで擁護すべきかに考えをめぐらしていたように見えた。ただただ僕は肩身の狭い思いをしつつ、神林長平ファンに申し訳ない気持ちでその場を過ごした。この場を借りて、ごめんなさい。
 この読書会を経て、僕は少しばかりこの作品の読み方を変えた。筆者は恐らく「ライトノベルとしてのSF」を書くという前提から物語を書き始めたんじゃないだろうか。まず一企業が一社独占体制を作るには、それなりに辻褄をあわせねばならない。よし、「臓器崩壊現象」を起こそう!さらに、アクションシーンにもこだわりたい。見た目の派手さもライトノベルには欠かせないのだ。というわけで超能力が登場したのである。そしてライトノベルの主人公としては、今回はハードボイルド系でいこう。よし、これだけの設定を混ぜ合わせれば、立派なSF的ライトノベルの完成だ!
実際にこの作品をライトノベルと考えれば、全ての設定がステレオタイプでぴったりと馴染む。逆にSFであることに重きを置いてみても、それはどこか物足りないものでありむず痒さを感じたまま終わってしまう。ライトノベルとSFは共存は出来るかもしれないが、それは決してSF的な設定を混ぜ込んだだけのライトノベルではないのだ。
 神林長平氏の作品や作品製作態度を責めているつもりは毛頭ない。むしろこういった作品もどんどん書いていって欲しい。こういった作品が中学生辺りに読まれることで手法としてのSFに親近感が湧くと思えるからだ。ただ、SFとしてこの作品を話し合うにはやや無理があるのかもしれない。話し合うには娯楽的要素が多すぎ、逆に話し合うべき余地が少ないからだ。そんなわけで、この作品を大学のサークルで出してしまったことに対しては、少しばかり反省するべきかもしれない。もっとも、僕はライトノベルが好きなのでこれからもこういった作品を読むつもりだ。それに負けずにハードSFも読み進めていけたらいいと思う。

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