開催日:2003/5/29
レポーター:高橋
課題:ロアルド・ダール「味」「偉大なる自動文章製造機」
RESUME
ロアルド・ダール『あなたに似た人』
作者紹介:1916年、ウェールズに生まれる。第二次大戦中は空軍のパイロットをしていたが、終戦後に大使館づき武官としてアメリカに渡り創作活動を始める。1953年、『あなたに似た人』でエドガー・アラン・ポー賞を受賞。映画やテレビの脚本も手がける。結婚後、自分の子どもたちに語ったことから童話を書くようになる。代表作、『来訪者』『オズワルド叔父さん』『チョコレート工場の秘密』など。
日本でも一昔前は有名だったみたいで、星新一も読んでいたみたいです。そのころは不条理系の作家と認知されていたようですが、今読むとスタンダードな古典といった感じがします。
「味」(『あなたに似た人』)
(あらすじ)美食家が家の主人とワイン利きの賭けをする。美食家は自宅と別荘を賭け、家の主人には自分の娘を賭けるように持ちかける。主人は同意する。賭けはいったん美食家の勝ちのよう見えたが、最後にイカサマがばれ、主人は鼻孔のあたりにあの危険な白い斑点を浮かべ始める…。
ダールがよく扱うテーマの一つに賭け事がある。そもそも、賭け事というものは素材として非常に調理しやすい。賭け事そのものがすでに物語じみた性格を持っていて、話も自然に盛り上がるし、読者もひきつけられる。『カイジ』や『ジョジョ』のダービーの回なんかが例になるかと。さらに、ダールは小説を書く上で題材に関する資料を念入りに集め、作品に反映させる。その知識によって作品にリアリティを持たせることができるし、それ自体でもおもしろい。小説という分野はもともと他の分野に比べ、多くの情報を盛り込みやすく、こういった作業は疎かにしてはいけない。
さらに着目すべきは、家の主人が賭けにのる決断時の描写である。家が二つもらえるとはいえ、普通の親は自分の娘を賭けはしない。しかし、「普通の親父が欲に負けて、平静さを失っていく」、この時の描写によってストーリー展開は輪をなしている。奥さんなんてこの時のためにいるようなものだし。あと、忘れてはならないのはワインの味の擬人化というレトリックである。これはもう、うまいとしか言いようがない。
今の作品はどれも軽くなっちゃってて、展開にたいした必然性もないまま、お約束で話が進んでいってしまう傾向があるので、こういった作品から学ぶことは多いのではないか。
「偉大なる自動文章製造機」(『あなたに似た人』)
(あらすじ)小説家志望で電算機の開発技術者でもある青年が自動文章製造機、つまり小説が書けるコンピューターの開発に成功してしまう。彼はそれによって書かれた小説を雑誌社に売り飛ばし、大儲けする。さらに他の作家を買収し、小説を書くのをやめさせて、小説の供給を独占する。最後はこの小説を書いている作者自身の元にもその買収の契約書が届けられる、というオチ。
アイディア中心の作品の場合、架空のもの、まだ実現していない技術が題材となっていることが多いので、それに関する知識を集め、リアリティを持たせることは難しい。普通は何とかそれらしく取り繕うものだが、ダールはそういうことを初めから放棄している(ように見える)。ここがダールにまったくSFを感じない理由であり、彼はこの種の作品においては想像を広げ、おもしろい部分をしっかり見せるということに力を入れているように思われる。
この小説はダールの中でも全体的に軽いのだけど、それでも読ませるのは、アイディアのおもしろさと少し変化をもたせたストーリー展開の妙によるではないか。作家たちがどんどん契約書にサインしていってしまうのは、商業化していく出版業界への風刺であったり、純文学が一段上のものとして書かれているのはダールのちょっとしたコンプレックスの表れなのか、というふうにも読める。
COMMENT
感想、読書会を終えて
・ダールはアメリカでは童話作家として受け止められていて、教科書にも載っているらしい。結構エロい話も書いているのだが、大丈夫なのだろうか。
・「味」で美食家がワインを咀嚼する描写が、まるで家の娘を弄っているようだという指摘があった。これは気がつかなかったが(作者も気がつかなかっただろう)、なかなか面白い読み方だと思われる。
・今回は基本的に、「なぜ、ダールにはこういう面白い話が書けるのか」というアプローチで読書会を進めたのだが、この問いかけは少し無理があったかもしれない。それよりは「なぜ、これを面白いと思うのか」という攻め方のほうが良かった。今後の参考にしたい。