開催日:2003/4/24
レポーター:大野
課題:小林泰三「海を見る人」
CRITICISM
あらすじ
場所によって時間の進行が異なる世界での哀しくも奇妙な恋を描いた作品…だそうです。
感想
「美亜へ贈る真珠」(梶尾真治著)の小林版って言うのが第一印象。ただしその科学的なギミックに関してはハード SF真ん中といっても過言ではなかろう。「時計の中のレンズ」も同様であるがストーリーよりもその圧倒的な世界観が読後の印象として残る作品であると思う。
とまあまじめにここまできたのであとは思うままに書きます。この小林泰三って人はもともとホラー畑出身の人なのですが経歴を見てみるとなんとデバイス屋をやってた人です。つまりバリバリの理系。ついでにばらばらにするのがいろいろな意味で好き。ためしにこの人の他の本も読んでみたのですがホラーの中にもSFがかったものがうじゃうじゃありました。「酔歩する男」などはなかなか面白かった気もします。 『αΩ』(アルファオメガ)とかいうSF長編もなんかの賞か何か受賞してた気もします。ただ何故かこの人グチャグチャグロイのが好きでそれは嫌なんですけどね。言葉の使い方に関しては「〜細工」とか「玩具修理者」とかこの作品の「〜倍村」とか微妙なはずし方がうまいと個人的に思っているのですがそこらへんはどうでしょうか。ちなみに科学考察が全く意味わからんって人でもファンタジーとして読めなくもなく、言葉と雰囲気を楽しむことはできると思います。でもまあ自分的にはこの話は世界がすべてだろうと思うんですがね。
議題
この世界についてどう思う?
登場人物たちは何者?
ハヤカワSFシリーズJコレクションについてどう思う?
ハードSF(なのかな?)ってどう思う?
なお、科学考察に関しては次のサイトを参照にして下さい。私には手に負えません。
「前野 [いろもの物理学者]昌弘のページ」 <http://homepage3.nifty.com/iromono/>
と、以上が読書会の資料として配布したものになります。これだけでは説明不足なので補足します。この作品世界においては重力の関係からか時間の進み方とものの見え方が場所によって違います。そんな世界で時間の流れが遅い世界の少女に恋をしてしまった主人公。この障壁の多い恋は思わぬ方向に収束していく。タイトルの「海を見る人」の意味がそれとともに分かっていくという構造になっています。またこの世界では光の速さが遅いために色々な変な現象が起こります。この時間と空間に関する丁寧な描写がこの作品のもう一つの魅力となっています。
読書会自体は、この作者が人物描写が下手ということが感想で多く聞かれました。感情の根拠が分からないというのがその理由でした。まあ、一目惚れとかに根拠を求めるのは無理ではありますが、何故それほどまでに強い感情になるのか、そこの理由付けがないのが確かにもったいないなと自分自身も思いました。この点が取り上げられるのは逆にいえば他の部分がよくできているためにこの欠点が目立ってしまうからともいえます。しかも、欠点といいましたが、普通にある水準は越えていて読むに耐えないというほどひどいものではありませんでした。ただ、読んだ人には十分にこの作品の世界観のよさは伝わったと思うが、レポーターの私がそのよさをもっと前面に出すように読書会を進行すればもっと色々な意見が聞けたかも知れないと思うと、少々残念に思います。
またこの人物描写に関しては、実は登場人物が人間でないと仮定すると、あまり大きな欠点に見えてこなくなります。実際にこの作品を読み解いてゆくとこの登場人物たちが人間であるか疑わしくなると、私自身は解釈しています。この考えは読書会の最後に言及したが、賛同は得られたみたいであったが、そこまでのインパクトは無かったようである。私自身はこの仮定を思いついたときに、「この作品は読書会で取り扱うべきだ」、と思ったので反応が余り無かったのは正直ショックでした。ここらへんは私の段取りの悪さが原因だったと思っています。
本の内容としては面白かったので、読書会としてはもっと盛り上がれたと思うので、自分の中では、この読書会は失敗でした。だだし、ハードSFと自分が思うものを取り上げたいと思う以上、世間の風当たりは必然的に強くなるのでやむをえないのかもしれない。これに懲りずに今後もハードなSFをできる限り扱っていきたいと思います。