開催日:2002/5/31
レポーター:海老原
課題:H・G・ウェルズ「タイムマシン」(創元推理文庫『ウェルズ傑作集1』)
RESUME
○あらすじ
ナレーターはある日友人の科学者(タイム・トラヴェラー、以下T・T)宅に招かれる。そこでT・Tからタイム・マシンを発明したと聞かされる。ナレーターは半信半疑だったが、ミニチュア版タイム・マシンが目の前で消失するのを目にする事になる。
後日ナレータは友人たちと再びT・T宅を訪ねる。T・Tは留守のようで、勝手に食事を始めたのだが、やがてぼろぼろの格好をしたT・Tが実験室から出てくる。
そしてT・Tは、今までしてきた未来世界の冒険談を語り始める。
T・Tはタイム・マシンを操作し、西暦80万2701年の未来世界へ到着する。そこはエロイとモーロックという対照的な二つの人種(生物?)が住む世界であった。
資本者階級のなれの果てであるエロイは、なんら創造的な作業が出来るわけでもなく、モーロックの脅威に怯えてある種牧歌的な生活を営んでいる。
一方労働者階級のなれの果てであるモーロックは、地下に住み視力が退化し、気持ち悪いぶよぶよの皮膚を持ち、エロイを食し生活している。
河で溺れかかったエロイの一女性、ウィーナを助けたT・Tは、一緒についてくるウェーナと共に探索をする。そこで人類の過去の遺物を見つけたり、モーロックの襲撃に遭ったりする。このときにウィーナは命を落としてしまう。未来世界で生活するうちにT・Tはその恐るべき全体像を理解する事になる。
モーロックの手によって封印されていたタイム・マシンを何とか奪う事に成功し、T・Tはもっとずっと先の未来へ行って見る。最後には化け物だけがかろうじて生き延びている「死に瀕した地球」を垣間見る。
長い旅から帰ってきたT・Tは友人たちに話をし、やがてまた時間旅行に出かけ再び戻ってくる事はなかった。
○ポイント
・時間旅行の理論とその背景
一応「縦・横・高さ・時間」で四次元という考え方を基本にしているようだ。
・未来世界での人類
労働者階級と資本者階級の差が生物学的差にまでなってしまった未来。イギリス的といえばそうなるのかもしれない。エロイが単純な思考しか出来ないことの象徴として、その言語の簡易性があげられる(P197)。一方モーロックは多少機械などにも興味を持っているようである。
・T・T(ウェルズ自身?)の考え
気になるT・Tの台詞
P229「これは、人類の利己主義に対する、厳格な罰なのだ。…人類は仲間の人類の労働におぶさって、安易で快適な生活に満足してきた。必然の欲求ということが、かれらの主張であり口実であった。ところが、時が満ちて、その必然の欲求がこんどは彼らの上にうそいかかってきたのだ…」
P249「人類の英知が描いた夢は、なんとはかなかったことだろう。ぼくはそう思うと悲しくなった。人類は自殺してしまったのだ…人類の希望はついにかなえられた――そしてその結果、このような状態に到達してしまったのだ。」
・ユートピアあるいはアンチ・ユートピア(ディス・トピア)小説
『タイム・マシーン』に現れる、過度の労働のために退化した地上のブルジョワたちのイメージは労働者階級に対するなまなましい憎悪の現れだと、A・L・モートンは評しているが、この評言はウェルズの作品をうっかり「ユートピア」と見あやまったための妄評である。ウェルズの作品の多くは現代社会のグロテスクなイメージであり、反ユートピアにつながるものなのである。
――川村香男里著「ユートピアの幻想」(講談社学術文庫)
COMMENTS
まずウェルズのタイム・マシン理論の検証から始めた。まあ100年前(そうです、100年前の作品なんです!!)にしては頑張ってるんじゃないのか、ウェルズ! という感想が主だった。やはりSF研だからなのか、タイム・マシーンとなるとそれぞれ語りたいことがたくさんあるのか、タイム・マシーン話がしばし続いた。理工学部生の意見として「コスト」の問題の指摘があった。ただ、T・Tは未来にしか行っていないので、ややこしい「タイム・パラドックス」の話にはならなかった。
当初、中心的話題にしたかったウェルズの進化論的考え方は、レポーターの下調べ不足か例によって例の如く(?)話の進路は右へ左へ。
ウェルズは「SFの祖」としてのイメージが強く、今のSF作品のアイデアの原型となるものは殆どやったのではないか。いや、逆にウェルズが描いたモノしかSFとして認められない、という逆説が常識と化しているのではないか、などという興味深い意見が出た。
他にはT・Tが、エロイ=モーロック未来世界を脱出した後に、地球が滅亡するぎりぎりのビジョンを見るが、この描写もなかなかよいではないか、という意見も出た。
そういえば、どうやらこの『タイム・マシン』は映画化されるようである。機会があればSF研で是非に見に行きたい。
最後に、最近見つけたこの本よりの引用でしめる事にする。
「主人公の時間旅行者が目撃する八〇万年以上未来の地球では、人類は地上種族エロイと地下種族モーロックのふたつに分裂し、後者が前者を食うというカニバリズムさえ日常化しているのだから、ここでは本質的な時間理論以上に、十九世紀末、ウェルズ本人の生きた現実を急襲していたダーウィン進化論の陰画としての退化論と、クラジウスが発見したエントロピー増大の法則(熱力学第二法則)の影響が濃厚である。」(巽孝之『「2001年宇宙の旅」講義』より)